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マウス性決定遺伝子Sryの隠れたエキソンを発見、SRY-Tが性決定因子に-阪大

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2020年10月06日 AM11:45

マウスのSry遺伝子転写産物、-Sと新たに発見したSry-Tが存在

大阪大学は10月2日、マウスの性決定遺伝子Sryの隠れたエキソンを発見し、そのエキソンは真の性決定因子であるSRY-Tをコードしていることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生命機能研究科の宮脇慎吾招へい教員、立花誠教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌「Science」に掲載されている。


画像はリリースより

哺乳類には、雄と雌の性がある。どのように性が決まるのかは古代ギリシア時代より議論されており、性決定の研究分野は生物学の大きなテーマのひとつだ。哺乳類の性は性染色体の組み合わせで決まることが知られている。XX型は雌になり、XY型は雄になる。1991年にKoopmanらのグループにより、Y染色体に存在するSryが性決定遺伝子であると示された。すなわち、Y染色体を有していれば、Sryが活性化することでその個体は雄になる。Sryが発見されて以降の30年間、Sryは、単一のエキソンで構成される遺伝子(単一エキソン遺伝子)であり、一種類のタンパク質SRYをコードすると考えられてきた。これは教科書的事実として認知されている。

今回、研究グループは、マウスを使った実験で、Sryの新たなエキソンを発見。研究グループは、これまでにSryが発現する細胞を選択的に集める方法を確立していた。その方法を用いて、Sryが発現する細胞の網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq)をした結果、Sryの近傍に未知の転写産物が存在することに気付いたという。

マウスのSry遺伝子座には、Sryを挟んで左右で完全に同じ配列が鏡写しに存在するパリンドローム構造がある。通常の解析方法では、パリンドローム構造に隠されて未知の転写産物は表示されない。パリンドローム構造を想定した解析方法により、初めて未知の転写産物が描出される。

次に、転写開始点を網羅的に解析する手法(CAGE-seq)や、転写されたRNAを長い状態のまま網羅的に解析する手法(long-read RNA-seq)などの最新の手法を用いて解析した結果、この未知の転写産物がSryの第2のエキソンであることを明らかにした。

この発見により、マウスのSry遺伝子の転写産物には、以前から知られていた単一エキソン型Single- exon type Sry(Sry-S)と、新たに発見したTwo-exon type Sry(Sry-T)が存在することがわかった。

SRY-Sではなく、SRY-Tが性決定因子として働く

次に、Sry-Tの性決定における役割を調べるために、Sryの第2エキソンをゲノム編集により削除したSry-T欠損マウスを作製。Sry-T欠損マウスはSry-Sを発現しているにもかかわらず雌に性転換した。このことから、Sry-Tは雄への性決定に必須であることが明らかになった。

さらに、今回発見したSry-Tとこれまでに知られていたSry-Sを、XX型のマウスで活性化させると、Sry-Tを活性化させたマウスのみが雌から雄へ性転換したという。以上の結果から、生体では、これまでに知られていたSRY-Sではなく、SRY-Tが性決定因子として働いていることが明らかになった。

SRY-S、雄化能力を不十分にするタンパク質分解シグナルが存在

続いて、Sry-Sが実験的にマウスを雄化する能力を持つにもかかわらず、生体では雄化できない原因を調査。SRY-SとSRY-Tのアミノ酸配列を比べると、後方のアミノ酸配列が異なる。この違いを解析した結果として、タンパク質デグロンを分解する配列がSRY-Sにのみ存在することが判明。デグロンの最後から2番目のアミノ酸をバリンからプロリンに変えると、デグロンは不活性化される。

そこで、SRY-Tの欠損に加えてSRY-Sの最後から2番目のアミノ酸をバリンからプロリンに置換したマウスを作製したところ、SRY-Sタンパク質の分解が抑えられ、このマウスは雄になった。以上の結果から、SRY-Sは自身のデグロン配列によりタンパク質が不安定になり、生体での雄化能力がないことが明らかになった。Sry-Sを用いた過去の実験では、タンパク質の不安定化を補えるほど多くのSry-Sを発現させることによって、雄にすることができたと考えられる。

以上の結果から、生体では、これまでに知られていたSRY-Sではなく、今回新たに同定されたSRY-Tが性決定因子として働いていることが明らかになった。

哺乳類の性決定の仕組み解明と、性決定遺伝子の進化の理解に期待

今回の発見は、性決定遺伝子の進化においても、新しい知見をもたらした。Sryが存在するY染色体は進化の過程でどんどん遺伝子を失っていることが知られている。Y染色体以外の染色体は互いに修復が可能な対となる染色体を持っているが、Y染色体は1本しか存在せず、遺伝子の修復ができないためだと考えられている。このように、哺乳類のY染色体は、さまざまな遺伝子の機能が失われていく危機に直面していると考えられている。今回発見されたSry-Sのデグロンをコードしている配列も、遺伝子の機能が失われる危機のひとつと考えられる。Sryの隠れたエキソンは、レトロトランスポゾン由来の配列で構成されている。このことは、レトロトランスポゾン由来の配列がエキソン化することでデグロン配列を回避させた、すなわちSryの機能消失の危機を救ったと考えられるという。これは、ウイルスに由来する配列が宿主の遺伝子を進化させ、その種の存亡の危機を救った可能性を示しており、ウイルスと宿主生物との関係について、改めて考えさせる研究結果となった。

今回の研究成果により、生物学の大きなテーマのひとつである性決定において鍵となる遺伝子Sryの全体像が解明された。この発見は哺乳類の性決定の仕組みの解明と、性決定遺伝子の進化の理解につながると期待される。研究グループは今後、他の生物におけるSRY-Tや、SRY-Sのデグロンの存在を検証していくとしている。

また、現在、立花誠教授が研究代表を務める新学術領域「性スペクトラム」では、生物の性を連続する表現型(スペクトラム)として捉え直し、性に関するさまざまな現象の統一的な説明に挑戦する試みをしている。今回の研究成果は、マウスの性スペクトラムを規定する因子の再定義につながったとし、これまでに築きあげられたSry-Sによる研究成果が見直され、今後はSry-Tをキープレイヤーとした性の仕組みの理解が進むと期待される、と述べている。

今から10数年ほど前、Sryを含むY染色体上の遺伝子は退化の一途を辿り、雄はやがていなくなるだろうとの考え方が提唱された。今回の発見は、このような考え方に一石を投じるものだとし、今回の研究成果は、雄化に関わる最も重要な遺伝子が現在進行形で進化していることを意味している、と研究グループは述べている。

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