多岐にわたる色素性病変、見た目類似のため診断が困難
近畿大学は6月6日、顔面のシミの種類を人工知能(AI)で高精度に識別し、レーザー治療の実施判断を支援する診断システムを開発したと発表した。この研究は、同大医学部皮膚科学教室の山本晴代非常勤講師、中嶋千紗特命准教授、大塚篤司主任教授ら、同大工学部、葛西形成外科、京都大学大学院医学研究科皮膚科学、かねとも皮フ科クリニック、札幌医科大学医学部皮膚科学講座の研究グループによるもの。研究成果は、「Cureus」に掲載されている。

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シミやアザに代表される顔面の色素性病変は、肝斑、雀卵斑、後天性真皮メラノサイトーシス、日光黒子、悪性黒子・悪性黒子型黒色腫など多岐にわたり、見た目が類似するため診断が難しいといわれている。一方で、これらの病変は適切な治療法が大きく異なり、特にレーザー治療の可否や選択に直結するため、正確な診断が必要となる。たとえば、肝斑に対する不適切なレーザー照射は逆に悪化を招き、悪性黒子型黒色腫の見逃しは治療の遅れに直結するといったリスクがある。
ディープラーニングによる画像診断、顔面の良性・悪性色素病変対象の研究は不十分
近年、深層学習(ディープラーニング)を用いた画像診断技術が注目されており、皮膚病変の自動分類において医師と同等以上の精度を達成している例も報告されている。しかし、ディープラーニングによる画像診断は、メラノーマ検出などでは豊富な実績があるものの、レーザー治療計画に直接関係する顔面の良性・悪性色素病変を対象とした研究は十分に行われておらず、診断支援システムの開発が求められている。
肝斑、雀卵斑、後天性真皮メラノサイトーシスなど5種対象の分類支援システム構築
研究グループは、顔面の色素性病変に対するレーザー治療の意思決定を支援する目的で、ディープラーニングを用いた分類支援システムを構築・評価した。対象は、肝斑、雀卵斑、後天性真皮メラノサイトーシス(ADM)、日光黒子、悪性黒子・悪性黒子型黒色腫(LM・LMM)の5種の病変。研究では、432枚の高解像度臨床画像を用い、InceptionResNetV2およびDenseNet121という2種類の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を、転移学習で訓練した。
診断精度は80%以上、専門医・非専門医より高い性能を示す
各画像にホワイトバランス補正および病変部位のROI抽出を施し、画像の鮮明度なども客観的に評価した。学習済みモデルは5クラス分類タスクに適用され、それぞれの診断精度はInceptionResNetV2が87%、DenseNet121が86%を記録し、専門医(中央値80%)および非専門医(中央値63%)より高い性能を示した。
悪性黒子・悪性黒子型黒色腫は精度100%、レーザー治療検討での適切な病変同定に有用
特に、LM/LMMの診断では両モデルとも精度100%を達成しており、悪性病変の見逃しリスクを最小限に抑える可能性が示唆された。LM/LMMなどのメラノーマに対してレーザー治療を実施すると、がん再発時の手術が困難になるケースや、逆に浸潤がんとなるケースもあることから、LM/LMMを正確に診断できる同システムは、特にレーザー治療を検討する場面での適切な病変同定に有用と明らかになった。
今後、臨床環境下での有効性検証に期待
将来的には、顔面色素斑の鑑別診断を支援するツールとして、治療適応判断や副作用予測といった応用も視野に入れたモデル拡張が期待される。一方で、用いた画像データについて、患者ごとに分割されておらず、いずれも限定的な条件下で撮影されていることから、学習データとして不足があると指摘されており、より現実的な臨床環境下での有効性検証が、今後期待されている、と研究グループは述べている。
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