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薬の副作用メカニズムに関わる新たなエンハンサー領域同定-都医学研

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2025年05月13日 AM09:00

薬に対する副作用、その個人差に関連するシス制御エレメント領域は未解明

東京都医学総合研究所は4月29日、ヒト肝細胞を用いて、薬の副作用メカニズムに関連する新たなエンハンサーを同定し、その機能を明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所ゲノム医学研究センターの齊藤紗希主任研究員、川路英哉センター長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

薬を服用した際に生じる効果や副作用には個人差があり、その一因として遺伝要因が関与していることが知られている。これまで、タンパク質をコードする領域の遺伝子多型と薬剤応答性の関係に着目した研究が数多く実施されてきた。近年、体質や疾患に関わる一塩基多型の多くが、タンパク質をコードする領域ではなく、遺伝子の発現を調節するゲノム領域()に集積していることが明らかにされている。特に、遺伝子から離れた位置に存在し、遺伝子のスイッチ役として機能するエンハンサーの遺伝子多型は、大きな注目を集めている。

さまざまな物質の代謝を担う肝臓では、多くの医薬品により活性化される薬剤応答性の転写因子であるPXRが、薬物代謝酵素をはじめとする数多くの遺伝子発現を調節することが知られている。PXRがゲノム上の遺伝子発現制御領域に結合することで発現が調節されるが、ゲノム上のどの領域がPXRにより認識されるシス制御エレメントとして機能しているのか、その全体像は明らかになっていなかった。

ヒト肝細胞用い薬剤誘導性シス制御エレメント解析、ビタミンD濃度関連ゲノム多型など同定

今回の研究では、ヒト肝細胞において薬剤によって誘導されるシス制御エレメントの網羅的な同定とその機能解析に取り組んだ。

研究グループは、ヒトPXRが発現するヒト肝がん由来細胞株に、PXRの代表的な活性化薬であるリファンピシンを処置することで、薬剤応答に関するヒト肝細胞モデルを準備した。遺伝子の転写開始点のRNA発現量を定量的に測定するCAGE法を用いてこの細胞モデルを測定し、そのデータ解析を行うことで、薬剤により誘導されるシス制御エレメントの候補を同定した。(GWAS)を通じて報告されたヒトの表現型に関連する一塩基多型と比較したところ、同定した候補領域には生体内ビリルビン濃度やビタミンD濃度と相関するゲノム多型が顕著に集積していることが明らかになった。

イリノテカン副作用に関わるUGT1A1、その発現を制御する新たなエンハンサー領域発見

続いて、ヒト初代培養肝細胞において測定されたPXR結合領域の実験データを組み合わせることで、生理的な機能領域を絞り込んだ。そのうちの二か所についてCRISPR/Cas9によるゲノム編集やルシフェラーゼレポーターアッセイを用いて実際に機能を検証したところ、これらは抗がん剤イリノテカンの副作用に関わるUGT1A1遺伝子の発現を増加させる新たなエンハンサーであることが明らかになった。UGT1A1遺伝子のエンハンサーとして従来知られるPBREMと相同性の高いDNA塩基配列を有する「PBREM-like」や、UGT1A1遺伝子のイントロン内に位置する特定の領域が、同遺伝子の発現調節において重要な役割を果たすことを示す新たな知見である。さらにUGT1A1の発現を左右する一塩基多型も同定され、がん治療における安全性評価系の構築に貢献することが期待される。

薬剤によるビタミンD欠乏症、CYP24A1とTSKU遺伝子が関与するメカニズム判明

また、活性型ビタミンDの不活性化酵素であるCYP24A1遺伝子が薬剤誘導性エンハンサーによって活性化されること、またその活性を左右する一塩基多型を明らかにした。加えて、これまでビタミンD代謝の研究において着目されることがなかった遺伝子であるTSKUがビタミンD代謝に関連する遺伝子群の発現に影響を与えることを初めて見出すとともに、TSKU遺伝子の発現を薬剤誘導的に増加させるエンハンサーを明らかにした。一部の薬剤が引き起こす副作用としてビタミンD欠乏症が報告されているが、これらの結果は、その分子的機序を示唆する初めての知見である。

シス制御エレメント研究、薬剤副作用の個人差解明と個別化医療の発展につながる可能性

今回の研究は、これまで機能的理解が難しかったゲノム領域であるシス制御エレメントに焦点を当て、薬の副作用に関わる分子メカニズムの握する上での手掛かりとなるものであり、個別化医療の高度化へ向けた基盤となることが期待される。また、「ヒトゲノムの98~99%を占める非コード領域が果たす役割はいまだ十分に解明されていないことから、今回の研究で用いた方法論を適用することで、ヒトゲノムのより広範な機能的理解が進むことが期待される」と、研究グループは述べている。

 

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