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意図しない考え事が、不安・抑うつにつながる仕組みを解明-早大ほか

読了時間:約 3分49秒
2025年08月15日 AM09:10

何かしている時に他のことを考えてしまう「マインドワンダリング」

早稲田大学は7月29日、単純な実験課題中に他のことを考える時の意図の有無と内容の特徴が、日頃の不安や抑うつにどう影響するかを検証した結果を発表した。この研究は、同大大学院人間科学研究科博士後期課程の管思清氏、人間科学学術院の熊野宏昭教授、日本学術振興会の高橋徹特別研究員、実践女子大学人間社会学部の富田望准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
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従来の研究では、何かしている時に他のことを考えてしまうマインドワンダリング(Mind wandering)は、注意力や生産性を低下させるだけでなく、不安や抑うつなどの精神的健康にネガティブな影響を及ぼすことが指摘されてきた。一方、マインドワンダリングは創造性の高さとも関連があることが示されてきており、その良し悪しが何によって決まるのかはよくわかっていなかった。マインドワンダリングは非意図的なものと意図的なものに区別され、その内容もポジティブ・ネガティブ、過去・未来、具体的・曖昧に区別されてきている。その「意図」と「内容」の各次元が、結果の良し悪しと関わっている可能性があるが、その詳細についても明らかにされていない。

また、マインドワンダリングと一部重なる面を持つ自己言及的で持続的な感情制御のスタイルとして、「反すう」と「心配」がある。反すうは後悔のように過去の出来事や感情にとらわれる傾向があり、抑うつとの関連が深く、心配は取り越し苦労のように苦痛を伴う将来の出来事に対して過度に備えようとする認知的回避行動であり、不安との関連が深いとされているが、マインドワンダリングの結果の良し悪しとどう関わるかは不明だった。

マインドワンダリングが不安や抑うつの悪化につながるケースは?

今回の研究では、マインドワンダリングがどのような場合に不安や抑うつの悪化につながるのかについて、一つはマインドワンダリングの「意図」と「内容」の各次元の影響について、もう一つは「反すう」と「心配」との関わりについてという2つの点から明らかにすることを目的とした。そのために、マインドワンダリング→反すうや心配→不安や抑うつ、といった連鎖的な因果関係を推定する「チェーン媒介モデル」を用いた解析を実施した。

調査は健康な大学生を対象に行い、最初に日頃の反すう、心配、不安、抑うつそれぞれの程度を尋ねる質問紙に回答してもらった。その後、PCを用いた持続的注意課題を行ってもらった。その課題は、1~9までの数字が順番に画面上に示される際に、3以外の時はスペースバーを押し、3の時はバーを押さずに見送るというとても単純なもので、確実にマインドワンダリングが引き起こされるようになっている。この試行を900回行う間に、ある程度ランダムな間隔で20回の質問を繰り返すことで、その時に、マインドワンダリングをしているかどうかを確認し、していた場合、それが意図的であったかどうか、内容の各次元(ポジティブ・ネガティブ、過去・未来、具体的・曖昧)でどちらに当てはまるかを答えてもらうようにした。

非意図的・制御困難マインドワンダリング、反復的で自己言及的な認知スタイルを強化

チェーン媒介モデルによる解析を実施した結果、非意図的なマインドワンダリングで、特にネガティブな内容、未来志向の内容、曖昧な内容のいずれかを伴うものが、反すう、心配の順でその頻度を増やし、結果的に不安や抑うつを悪化させることが明らかになった。また、内容がネガティブな場合には、マインドワンダリングが直接的に心配を増やす影響を持つことも示された。ただいずれにしても、反すうが直接的に不安や抑うつを悪化させることがなかったことから、過去の後悔だけでなく将来の心配もし続けることの問題も示唆された。その一方で、意図的なマインドワンダリングについては不安や抑うつ、反すうとの関連は確認されず、一部では心配を抑制する関係が示された。

これらの結果から、非意図的で制御困難なマインドワンダリングをしやすい傾向が、反復的で自己言及的な認知スタイル(反すうと心配)を強化し、精神的苦痛を増幅させるという前後関係が存在することが明らかとなった。そして、メンタルヘルスの改善のためには、マインドワンダリングの「意図」や「内容」の次元に注目する必要があること、反すうや心配をしていることに気づいたらそれを減らすようにすることの重要性が示唆された。

意図的なマインドワンダリングを増やすことが、メンタルヘルス・生産性向上に役立つ可能性

今回の研究では、日常的に誰でも経験する、何かしている時に他のことを考えてしまうマインドワンダリングが、反すう(後悔)や心配(取り越し苦労)などのぐるぐる思考につながり、不安や抑うつを強める仕組みを明らかにした。そして、マインドワンダリングせざるを得ないような状況では、早めに反すうや心配などのぐるぐる思考に気づいて切り上げるようにすることや意図的なマインドワンダリングを増やすことが、メンタルヘルスや生産性の向上に役に立つ可能性があることが示唆されたことは、社会的に大きな波及効果を持つと考えられる。さらに学術的には、ぼんやりすること、マインドフルになる(目の前の現実に気づく)ことなどの効用を科学的に検討する方法論の一つとして、今後の研究の進展につながると考えられる。

本研究は、実験課題中のマインドワンダリングと、日頃の生活でのマインドワンダリングの特徴が一致するだろうという前提に立って、反すう、心配、不安、抑うつを測定する質問紙との関連を見たものであり、時間的な前後関係がはっきりしないため、因果関係について断定することはできない。そのため、今後は実験課題中に経験するマインドワンダリングと、その前後に生じる気分の変化との関係を見ることによって、お互いの因果関係を明らかにする必要がある。また、そこで生じるさまざまな特徴を持ったマインドワンダリング同士の関係性を明らかにすることによって、マインドワンダリング自体がどのように生じてくるか(例えば、非意図的マインドワンダリングと意図的マインドワンダリングの相互関係など)についても明らかにできるものと考えている、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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