発達障害の一つである自閉スペクトラム症、幼少期からの支援と早期介入が必要
金沢大学は7月18日、自閉スペクトラム症の子どもは認知機能の発達段階によって睡眠の質と感覚特性の関連性が異なることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大人間社会研究域学校教育系の吉村優子教授、人文学系岩崎純衣研究員(研究当時、現:日本女子大学助教)、医薬保健研究域医学系の菊知充教授、同大子どものこころの発達研究センターの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
自閉スペクトラム症は、発達障害の一つであり、社会的コミュニケーションへの困難さや、限定された興味・活動への強いこだわりなどを主な特徴とする。こうした特性により、日常生活や対人関係において困難を抱えることが多く、適切な理解や支援が得られない場合、思春期以降にうつ症状などの二次的な精神的問題を発症するリスクが高まることが知られている。そのため、幼少期からの適切な支援と早期介入が大切とされている。
これまでの研究により、自閉スペクトラム症の子どもは、定型発達の子どもと比べて、睡眠の質が低く、また感覚の感じ方においても、特異性(鈍さや過敏さ)を示すことは明らかになっている。一方で、定型発達児においては、睡眠の質と認知能力との間に関連があることが報告されている。しかしながら、自閉スペクトラム症の子どもにおいて、「睡眠の質」と「感覚特性」および「認知能力」との関連性については、これまで検討されていなかった。
認知スキルが平均よりやや低い場合、感覚の特異性が強いと睡眠の質がさらに低下
今回の研究では、自閉スペクトラム症の診断を受けている子ども42人と、発達について指摘を受けたことがない定型発達の子ども45人を対象に研究を実施した。全ての対象児は、調査時点で5~6歳で、睡眠に関する通院歴はなかった。
睡眠の質の評価には日本版幼児睡眠質問票、感覚(視覚・聴覚・前庭覚・触覚・口腔感覚)の特異性の強さの測定にはSP感覚プロファイル、そして認知スキルの指標には、K-ABC(子どもの認知能力を測定する心理・教育アセスメントバッテリー)の認知処理スコアを用いた。
分析の結果、睡眠に何らかの問題がある可能性を示す基準点を上回った自閉スペクトラム症の子どもは52.38%にのぼり、定型発達の子どもでは17.77%にとどまった。さらに、自閉スペクトラム症の子どもにおいてのみ、触覚、前庭覚、口腔感覚の特異性を強く示すほど睡眠の質が低いという結果が得られた。加えて、認知スキルを含めた分析では、認知スキルが平均よりやや低い子どもにおいてのみ、感覚特異性が強いと睡眠の質が低くなるという関連が見られた。しかし、自閉スペクトラム症であっても認知スキルが高い子どもに関しては、感覚の特性と睡眠の質の間には有意な関連が見られなかった。
これらの結果は、認知機能の発達の程度によって、睡眠の質と感覚特性の関連の仕方が異なることを示している。
困難さが多様な自閉スペクトラム症、科学的知見に基づいた個別の支援計画へ
今回の研究で対象としたのは5~6歳児のみで、かつ知的障害と診断されていない子どもに限られていた。今後は、知見の普遍性を検討するため、対象年齢の幅を広げるとともに、知的障害の診断を受けた子どもも含めた分析を行うなど、さらなる研究の発展が求められる。「今回の結果は、睡眠の質と感覚特性の関連性を示したもので、何が睡眠の質に影響を及ぼしているかという因果関係については依然として明らかになっていない。研究が発展していくことで、自閉スペクトラム症という一つの発達障害の中でも一人ひとりがもつ困難さは、多様であることが科学的に示され、その子どもにあった支援を、科学的知見に基づいて計画・提供できるようになることが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・金沢大学 プレスリリース


