腱板断裂の術後、高脂血症や治療薬のスタチンが腱板修復に及ぼす影響は未解明
関西医科大学は7月29日、スタチン使用は腱板修復術後の再断裂に関連しないという研究結果を発表した。今回の研究は、同大附属病院スポーツ医学センターの山門浩太郎センター教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Arthroscopy」に掲載されている。

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肩腱板断裂に対する関節鏡視下修復術は、国内で年間1万5,000件以上行われている頻度の高い手術である。一方で、術後の再断裂は依然として臨床上の課題となっている。高脂血症は腱板断裂発生の危険因子であることから、術後においても再断裂の潜在的危険因子とみなされていたが、エビデンスが欠落していた。
さらには、高脂血症患者の多くが服用しているスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)が腱板修復に及ぼす影響は十分に理解されておらず、腱板修復に対する保護効果や再断裂率上昇を指摘する研究など、矛盾する結果が報告されてきた。
腱板修復術受けた620例対象、術後1年MRI画像と血清脂質値・スタチン使用/種類を解析
スタチンはその構造から、天然由来のタイプ1スタンダードスタチン(ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン)と完全化学合成のタイプ2ストロングスタチン(フルバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン)に分類される。ストロングスタチンは低用量でLDLコレステロールを低下させる一方、筋骨格系の副作用発現リスクが高いと報告されている。
今回の研究では、関節鏡視下腱板修復術を受けた620例を対象として検討した。血清脂質値(総コレステロール値、LDLコレステロール値、中性脂肪値)、スタチン使用の有無、スタチンの種類(タイプ1スタンダードスタチンとタイプ2ストロングスタチン)を調査し、多変量ロジスティック回帰を用いて術後1年時に撮像した磁気共鳴画像法(MRI)画像により判定した再断裂の潜在的危険因子を解析した。
血清脂質値と術後再断裂との関連なし、スタチンは種類により影響が異なる傾向
結果、血清脂質値と術後再断裂との関連は認められなかった(オッズ比は1に近く、95%信頼区間も極めて1に近い範囲に収束していた)。またスタチン使用も再断裂の統計的有意な因子ではなかった。一方で、スタンダードスタチンとストロングスタチンでは異なる傾向が認められた(スタンダードスタチン(オッズ比0.3;95%CI 0.07~0.91;P=0.061)およびストロングスタチン(オッズ比1.4;95%CI 0.78~2.4;P=0.26))。すなわち、スタンダードスタチンでは腱板に対して保護的な傾向が見られ、ストロングスタチンでは再断裂リスクが上昇する傾向が認められた。
従来の推測を否定、スタチン効果の種類による違いという新たな知見を提示
高脂血症と再断裂の関連は、高脂血症患者に腱板断裂や肩疾患が多く発生する観察結果から演繹的に想定されていた。今回の研究の意義は、整形外科手術を対象とした研究としては大規模なコホートを解析することで、臨床的な関連性を否定する結果を提示できたことにある。
また、スタチン使用の腱板再断裂に対する悪影響についても否定的な結果が示された。「同時に、スタンダードスタチンとストロングスタチンで異なる傾向が認められたことは、これらをひとまとめにした過去の研究が矛盾していた理由を示唆していると考えられる」と、研究グループは述べている。
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・関西医科大学 プレスリリース


