「感情伝達」が起こる具体的なメカニズムは不明だった
東京理科大学は7月18日、マウスにおいて、物理的に損傷がない痛みの共有「感情伝達」が、超音波領域の痛み刺激による発声音で行われている可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大薬学部薬学科の笠井智香助教、同・宮崎智教授、同・斎藤顕宜教授、同・創域理工学部情報計算科学科の故入山聖史教授、同・薬学部薬学科の吉澤一巳教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS One」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
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痛み(疼痛)にはさまざまな種類と原因がある。古くは痛みとは生理的、物理的な刺激(感覚)から来るものと考えられていた。近年の研究では、直接的に身体に何らかの刺激がなくても、痛みが発生し得ることが明らかになっており、その原因のひとつとして心理的なもの(感情)が関連しているとされている。つまり、痛みという現象は生理的なもの(感覚)と、心理的なもの(感情)との両方が複雑に絡み合ったものなのだが、その仕組みは非常に複雑で、まだ全容は明らかになっていない。
そのうち、感情が引き起こす痛みの原因の一つとして、「感情伝達」が挙げられる。感情伝達とは、実際に痛みを感じているマウスと同じ環境にいる「傍観者」マウスにおいて、生理的な刺激がないにも関わらず、痛みを感じ、痛覚過敏を示す現象のことである。この感情伝達が起こる要因は、視覚や聴覚、嗅覚などの情報によって起こると考えられているが、その具体的なメカニズムは十分に解明されていなかった。
そのうち、感情が引き起こす痛みの原因の一つとして、「感情伝達」が挙げられる。感情伝達とは、実際に痛みを感じているマウスと同じ環境にいる「傍観者」マウスにおいて、生理的な刺激がないにも関わらず、痛みを感じ、痛覚過敏を示す現象のことである。この感情伝達が起こる要因は、視覚や聴覚、嗅覚などの情報によって起こると考えられているが、その具体的なメカニズムは十分に解明されていなかった。
サウンドストレスでマウスの痛覚過敏を引き起こす脳内炎症を誘発できることを確認
研究グループは今回、感情伝達のメカニズムを詳細に知ることで、心理的な感情がどのように痛みに関係しているのかを検証した。前述のように、感情伝達が起こる要因は視覚、聴覚、嗅覚などが考えられているが、今回は音に着目した。
まず、マウスに生理的な痛みの刺激を与えるためにマウスの尾を動脈クリップで挟み、痛み反応中の鳴き声を専用の録音機で録音した。次に、その鳴き声の周波数を分析し、超音波部分(20kHz以上の音域)のみを取り出し「サウンドストレス」を作製した。
次に、今まで痛みを与えていない別のマウスを用意し、このサウンドストレスを80dbで4時間、防音ボックス内で曝露させた。その結果、翌日と3日後に、痛覚が明らかに過敏になっていることがわかった。さらに視床を解析したところ、炎症関連遺伝子の上昇がみられた。サウンドストレスによる炎症反応を起こしたマウスに、炎症の治療薬であるロキソプロフェンなどを投与すると、痛覚過敏は有意に改善。これにより、超音波によるサウンドストレスによって、痛覚過敏を引き起こす脳内炎症を誘発することがわかった。
炎症のあるマウス、サウンドストレス曝露で治療薬の鎮痛効果が低下
次に、既に人為的に炎症反応を起こしたマウスに対してサウンドストレスを曝露させ、その後に同じように治療薬を投与したが、その痛みの回復期間は長くなり、治療薬の鎮痛効果が弱くなるという結果になった。
痛みや回復を悪化させるストレス音から解放された医療環境が重要
今回の研究は、感情伝達のメカニズムに超音波域の音がどのように作用しているかを調べたもの。実験の結果、サウンドストレスは脳内に炎症を引き起こし、痛覚過敏になるだけでなく、炎症性の疼痛を悪化させ、治療を困難にする一因であることがわかった。これらの結果は、脳炎症を引き起こし、痛みや回復を悪化させるストレス音から解放された医療環境の重要性を強調している。
「今後さらに研究を重ねることで、ストレス性(心理的、感情面)の痛みの理解と、音の面からストレスや環境刺激の低減につなげるといった、科学的根拠に基づく新たな痛みの管理治療戦略の開発を導くことが期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京理科大学 プレスリリース


