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小児がん経験者、成人期における心機能障害リスクの実態が判明-順大ほか

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2025年08月18日 AM09:30

化学療法や放射線治療、成人期に心機能障害を合併の可能性あるが実態調査はなかった

順天堂大学は8月5日、成人期を迎えた小児がん経験者における心機能を調べた結果、小児がん経験者の14%に、晩期合併症として心機能障害が見られることが明らかになったと発表した。この研究は、同大医学部附属浦安病院と、聖路加国際病院小児科の血液・腫瘍研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cardiology」に掲載されている。


画像はリリースより
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現在、小児がんの治療成績は大きく向上し、80%以上の方が長期生存できるようになっている。そのため、治療後も生活の質を良好に保つことが重視されている。小児がんは白血病、リンパ腫、肉腫などが多く、これらに対して化学療法(抗がん剤)や放射線治療などを組み合わせた治療が行われる。その中でも、アントラサイクリン系薬剤や胸部への放射線治療は、治療後10~20年以上経ってから心臓に影響(心機能障害)を及ぼす可能性があることが知られている。そのような「がん治療関連心機能障害」は将来の心筋梗塞や心不全など心血管疾患の発症リスクにも関係するため、早期診断・早期治療だけではなく発症の予防が重要である。

しかし、これまで日本では小児がん経験者のがん治療関連心機能障害の実態について調査されておらず、どのような患者において心機能障害の発症に注意を払うべきか明らかではなかった。

小児がん経験者の約14%に心機能障害、左室長軸方向ストレイン値が低下

聖路加国際病院小児科では2016年2月から、18歳以上の小児がん経験者(診断から10年以上、かつ治療終了してから5年以上)を対象に人間ドックを用いた包括スクリーニングを行っている。今回は、その中で行われた心臓超音波検査結果を解析し、小児がん経験者のがん治療関連心機能障害について調べた。

心臓の収縮能を表す左室駆出率が53%以下の場合をがん治療関連心機能障害と定義したところ、小児がん経験者108人(検査時年齢中央値25歳、平均治療後年数16年)のうち15人(14%)ががん治療関連心機能障害と診断された。

また、これら心機能障害を有する小児がん経験者では、心臓超音波検査結果の中でも、潜在性の心機能障害を発見できるとされている「左室長軸方向ストレイン値」が低下していた。特に、左心室の前側(心室中隔)のストレイン値が低下しており、限局的な心臓の筋肉の障害が明らかになった。この左室ストレイン値は左室駆出率が低下する前に低下するため、心機能障害の早期発見に役立つ可能性が示された。

さらに、心機能障害を有する小児がん経験者の多くはアントラサイクリン系薬剤の累積使用量が体表面積あたり300mg以上であり、がん治療関連心機能障害発症のリスクとなる累積使用量は体表面積あたり150mg以上と算出された。

定期的な心機能評価、治療サマリーの保管が重要

今回の研究から、小児期に化学療法や放射線治療が行われた小児がん経験者の14%にがん治療関連心機能障害があることが明らかになった。特にアントラサイクリン系薬剤を体表面積あたり150mg以上投与された小児がん経験者は、成人後も定期的に心機能評価を行うことが重要である。また、心機能障害の早期発見には一般的に用いられる左室駆出率だけでなく、左室長軸方向ストレイン値も有用である可能性が示唆された。小児がん経験者が健康管理を行う上では、自身が受けた治療の内容や薬剤投与量を記録した「治療サマリー」を手元に保管し、自身の治療歴を把握しておくことの大切さも改めて確認された。

「今後は、このような心機能障害を早期に発見して、心機能を保護する薬剤の投与によって心機能障害の進行を防げるかどうかを明らかにするため、さらなる検証を行っていきたい」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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