新しい治療法として期待される光免疫療法、光によるIR700の構造変化が重要
関西医科大学は3月5日、光免疫療法で使用される光感受性色素IR700の誘導体IR702HKTの合成方法を確立し、IR702HKTがIR700とほぼ同等の性能をもつことを示したと発表した。この研究は、同大附属光免疫医学研究所統括部門の高倉栄男准教授、原大貴大学院生、同研究所の小林久隆所長・特別教授(兼 NIH)らの研究グループによるもの。研究の内容は、第一回光免疫療法研究会で発表された。なおIR702HKTの合成方法および化合物に対する特許をNIHと共同で米国出願中、ウイルス被膜粒子を用いたIR702HKTの光免疫療法に関する応用特許も米国出願中である。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
光免疫療法とは、がん細胞に特異的に結合する抗体と光感受性色素IR700を組み合わせた薬剤を投与した後、がんに対して近赤外光を当てることでがんの細胞死を引き起こす、新しいがんの治療法である。薬剤や近赤外光は体に対して害がなく、がん細胞だけ選択的に殺傷することができるため、副作用の少ない治療法として期待されている。
現在のところ、日本では「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」に対する治療として保険適用されており、全国160施設以上で治療が行われている。光免疫療法でがんの細胞死が引き起こされるメカニズムも明らかにされており、IR700が光を吸収して化学構造が変わることが重要であると示されている。そこで、このメカニズムに基づいて化学構造を最適な形に変えることでさらに治療効果の高い光感受性色素が開発されることが望まれている。
複雑な構造のIR700、誘導体の報告はほとんどなかった
しかし、IR700は複雑な構造をしており、化学合成する方法が確立されていない。そのため、IR700誘導体の報告はほとんどなく、基礎研究のレベルにおいてもIR700よりも優れた光感受性色素の報告はなされていない。そこで、この課題を解決することを目指し、研究に取り組んだ。
IR700の基本構造合成に着目、IR700の誘導体「IR702HKT」の合成方法を確立
今回の研究では、IR700の基本構造であるケイ素フタロシアニン合成に焦点を当て、さまざまな種類の化合物の合成を試みることで、構造と反応生成物に関する知見を集めた。その結果、特定の構造の化合物は合成が容易であることを見出した。この知見をIR700誘導体の化学構造の設計およびその合成方法に反映させ、実際に合成することに成功した。研究グループは、今回の研究で開発に成功したIR700誘導体を「IR702HKT」と名付けた。
IR702HKT、IR700と同等の細胞殺傷性持つことを細胞実験で確認
IR702HKTと抗体を組み合わせた薬剤を調製し、細胞を用いた検討を行ったところ、IR702HKTはIR700と同等の細胞殺傷性を有することが示された。今回の研究の成果は、光免疫療法の光感受性色素を改良するためのプラットフォームとなる。
より優れた光感受性色素の開発、治療効果向上や適用範囲拡張につながると期待
「今後は、IR702HKTの化学構造を更に洗練させ、IR700よりも優れた光感受性色素が創製されることが期待される。それが達成されれば、光免疫療法の治療効果の向上、適用範囲の拡張などが見込まれ、さらに多くのがん患者の治療に貢献できると考えられる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・関西医科大学 プレスリリース