必須ミネラルの一つである亜鉛の不足、不妊症・不育症との関連は未解明
麻布大学は2月18日、マウス個体とマウス・ヒト子宮内膜細胞を用いた研究により、妊娠の最初のステップである胚着床には、子宮内膜細胞への亜鉛の取り込みが必須であることを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大獣医学部動物繁殖学研究室の川田由以研究員(同大学大学院博士前期課程修了)、獣医学部の影山敦子特任助教、野口倫子准教授、村上裕信准教授、寺川純平講師、伊藤潤哉教授、柏崎直巳教授、徳島文理大学薬学部病態分子薬理学研究室の深田俊幸教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PNAS Nexus」に掲載されている。

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近年、不妊症や不育症が大きな社会問題として取り上げられている。生殖補助医療技術が進むなかで、妊娠しやすい母体環境を整える重要性が指摘されている。体内で作ることができない必須ミネラルである「亜鉛」は、食事から取り入れる必要がある。亜鉛の不足が、妊娠しにくい状態をもたらすことは知られていたが、亜鉛の詳細な役割はわかっていなかった。研究グループは、子宮の細胞に亜鉛(イオン)を取り込む役目を持つ亜鉛輸送体ZIP10に着目し、子宮内膜細胞でZIP10を欠損したマウスの妊孕性や女性ホルモンに対する応答性について検討した。
子宮で亜鉛輸送体ZIP10欠損のマウス、胚が子宮内膜に浸潤できず胎盤形成が不完全
子宮で亜鉛輸送体ZIP10を欠損したマウスでは、胚着床の初期反応は認められるものの、胚が子宮内膜に侵入できず、結果として胎盤の形成が不完全となり不育症や流産といった不妊を引き起こすことが明らかになった。
子宮内膜細胞に亜鉛が取り込まれず、プロゲステロンのシグナル伝達に異常来す
その理由として、子宮内膜細胞でZIP10が欠損すると細胞内に亜鉛(イオン)が取り込まれず、妊娠の成立と維持に重要なプロゲステロンのシグナル伝達に異常を来すことを明らかにした。中でも亜鉛(イオン)は、GLI1と呼ばれるZinc Finger転写因子の核~細胞質間輸送を制御していることが明らかになり、これはヒトの子宮内膜細胞でも同様であることを明らかにした。
「今回の研究結果は、妊娠を望む女性での『亜鉛』の摂取が、妊娠しやすい体づくりに重要であることを分子レベルで明らかにしたものである。成人女性の多くは潜在的な亜鉛欠乏であるとする研究報告もあり、今回の研究は妊娠における亜鉛の重要性を改めて見出したものである」と、研究グループは述べている。
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・麻布大学 プレスリリース