TNF様リガンド1Aを標的とするヒトIgG1-λ2モノクローナル抗体製剤
サノフィ株式会社は3月7日、仏サノフィ社とTeva Pharmaceuticalsが2月22日に、TL1Aを標的とするヒトIgG1-λ2モノクローナル抗体製剤「duvakitug」の第2相RELIEVE UCCD試験の詳細なデータを新たに公開したと発表した。同試験結果は、ドイツのベルリンで開催された「第20回欧州クローン病・大腸炎会議(ECCO2025)」にて、2題の口演で発表された。

炎症性腸疾患(IBD)の代表的な疾患である潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)は、消化管の慢性的な炎症により腹痛や下痢・直腸出血・疲労・体重減少などの持続的な消耗性症状が出現する。また、炎症が長期間継続することで消化管が損傷し、線維化と呼ばれる現象が生じる。これは腸壁に瘢痕組織が多く発生する状態であり、腸管の狭窄や閉塞を引き起こす可能性がある。その結果、入院や外科的手術が必要となるケースも少なくない。しかし、これまでにIBDを完全に治癒させる治療法は確立されておらず、治療の主な目標は寛解の導入および維持と、再燃の予防に置かれている。
duvakitugはベスト・イン・クラスとなる可能性のあるヒトIgG1-λ2モノクローナル抗体製剤で、腫瘍壊死因子(TNF)様リガンド1A(TL1A、別名TNFスーパーファミリーメンバー15(TNFSF15))を標的とする。TL1Aがその受容体である細胞死受容体(DR3)に結合して伝達するシグナルは、IBDに関連する炎症を増強し、線維化を促進すると考えられている。同剤はDR3を介したTL1Aのシグナル伝達を優先的に阻害するように独自の設計がなされた抗体製剤で、TL1A-DcR3に対する阻害作用が低いことが利点となる可能性がある。
中等症~重症の成人UC/CD患者を対象とした第2b相無作為化二重盲検用量探索試験
RELIEVE UCCDは、中等症~重症のUCまたはCDの成人患者を対象にduvakitugの有効性と安全性・薬物動態・忍容性を検討する、14週間の第2b相無作為化二重盲検用量探索試験。同試験では効率の高い新たな試験方法であるバスケット試験として計画し、UCとCDいずれの患者も参加できるようにした。また、クローン病におけるTL1Aの影響を検討した初の無作為化プラセボ対照試験である。同試験では、試験計画に規定した選択基準を満たした患者を試験参加前のIBDに対するATの実施状況で層別した上で、適応症(UCおよびCD)ごとに、1:1:1の割合でduvakitugの2用量群またはプラセボ群に無作為に割り付け、治験薬の隔週皮下投与を14週間行った。
UC患者コホートは、従来治療および・またはATを受け、効果不十分・二次無効または不耐がみられた中等症から重症の活動性潰瘍性大腸炎の成人患者で構成されている。CD患者コホートは、従来治療および・またはATを受け、効果不十分、二次無効または不耐がみられた中等症~重症の活動性クローン病の成人患者で構成されている。
主要有効性評価項目は、UC患者コホートでは臨床的寛解(modifiedMayoスコアの定義による)が得られた被験者数、CD患者コホートでは内視鏡的改善(SES-CDに基づくクローン病の内視鏡スコアの定義による)が得られた被験者数とした。試験には、日本を含むアジア各国、米国、欧州、イスラエルの医療施設が参加した。
14週でのUC臨床的寛解率450mg群36%、900mg群48%、プラセボ群20%
RELIEVE UCCD試験のUC患者コホートでは、14週時点に主要評価項目である臨床的寛解(modified Mayoスコア(mMS))を達成した患者の割合は、duvakitug 450mg群では36%、900mg群では48%、プラセボ群では20%だった。プラセボ調整後の達成率は、450mg群では16%、900mg群では27%であった(それぞれp=0.050およびp=0.003)。
また、Advanced therapy(AT)の実施状況の有無で層別解析を行ったところ、いずれのサブグループともduvakitug投与例でプラセボ投与例より高い臨床的寛解率が認められた。AT既治療例では450mg群29%、900mg群36%、プラセボ調整後の達成率は450mg群22%、900mg群29%だった。AT未治療例では450mg群39%、900mg群53%、プラセボ調整後の達成率は450mg群12%、900mg群26%だった。
上記以外の評価項目の結果として、mMSは450mg群81%、900mg群70%、プラセボ群52%だった。内視鏡的改善(MES)は450mg群45%、900mg群50%、プラセボ群23%だった。組織学的・内視鏡的粘膜改善(HEMI)は450mg群30%、900mg群33%、プラセボ群16%だった。
14週でのCD内視鏡的改善率、450mg群26%、900mg投与48%、プラセボ群13%
RELIEVE UCCD試験のCD患者コホートにおいて、14週時に主要評価項目である内視鏡的改善(SES-CD)を達成した患者の割合は、450mg群は26%、900mg群は48%、プラセボ群は13%だった。プラセボ調整後の達成率は、450mg群では13%、900mg群では35%であった(それぞれp=0.058およびp<0.001)。
また、ATの実施状況の有無で層別解析したところ、いずれのサブグループともduvakitug投与例でプラセボ投与例に比べ高い内視鏡的改善率が認められた。AT既治療例では450mg群11%、900mg群48%、プラセボ調整後の達成率は450mg群7%、900mg群44%だった。AT未治療例では450mg群47%、900mg群47%、プラセボ調整後の達成率は450mg群25%、900mg群25%だった。
上記以外の評価項目の結果として、SES-CDは450mg群17%、900mg群26%、プラセボ群9%だった。臨床的寛解(CDAI)は450mg群50%、900mg群54%、プラセボ群41%だった。CDAIは450mg群61%、900mg群62%、プラセボ群41%だった。臨床的改善(PRO2)は450mg群50%、900mg群53%、プラセボ群29%だった。
UC/CD患者コホートともduvakitugの忍容性は概ね良好、安全性も確認
また、UC/CD患者コホートとも、duvakitugの忍容性は概ね良好で、安全性に関する新たなシグナルは認められなかった。治験薬と関連のある有害事象、重篤な有害事象、投与中止に至った有害事象や、注目すべき有害事象についても、発現率や有害事象のパターンに用量との関連は認められなかった。なお、同剤は現在、臨床開発段階にあり、その有効性と安全性は、いずれの規制当局でも評価・検討されていない。
duvakitugの炎症軽減作用に期待
今回の結果を受けて、RELIEVE UCCD試験の責任医師らは「duvakitugには炎症軽減作用が期待されており、炎症性腸疾患の治療に真の意味での変革をもたらせる可能性がある。また、本試験で認められた内視鏡的改善率は、症状改善につながる治療を待ち望んでいる患者らにとって、同剤が新たな治療選択肢となる可能性を裏付けるデータと言える」と、述べている。
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・サノフィ株式会社 プレスリリース