SLE・CLEの治療薬として開発中の選択的TLR7/8阻害剤
メルクバイオファーマ株式会社は5月30日、治験中の新規経口TLR7/8阻害剤エンパトラン(enpatoran)の第2相試験で、活動性ループス皮疹を有する皮膚エリテマトーデス(CLE)および全身性エリテマトーデス(SLE)患者において良好なデータが得られたと発表した。同データは、5月21日から24日にトロントで開催された「第16回LUPUS 2025」で発表された。

エリテマトーデスは、皮膚、関節、腎臓およびその他の臓器を含む体のさまざまな部分に影響を及ぼす可能性がある慢性自己免疫疾患。免疫系が誤って健康な組織を攻撃することで発症し、炎症、疼痛、および臓器損傷をもたらす可能性がある。ループスには複数の種類があり、SLEおよびCLEが主な2つの病型だ。症状は軽度のものから生命を脅かすものまでさまざまで、多くの場合、疲労、関節痛、皮疹、および臓器病変を含む。ループスは女性と有色人種での発症が多く、治療法があるにも関わらず、有効性の限界や副作用により、多くの患者がアンメットニーズを抱えている。
エンパトランは、SLEおよびCLEの治療を目的として開発中の選択的Toll様受容体(TLR)7/8阻害剤だ。TLR7/8の活性化を阻害することで炎症性サイトカインおよび自己抗体の産生を抑制し、ループスにおける慢性炎症および疾患進行の根本的なメカニズムに対処することが期待されている。エンパトランは新規作用機序を有し、経口投与が可能であることから、種々のループス患者に共通のファースト・イン・クラスの治療薬となる可能性があるが、現在臨床試験中であり、世界のいずれの国においても承認されていない。
2つのループスコホートでエンパトランの効果を検証する第2相試験を実施
WILLOW試験(NCT05162586)は、標準治療(SoC)に加えて、エンパトランの3用量(25mg/50mg/100mg)を1日2回投与し、24週間にわたりプラセボと比較評価する、国際多施設共同、ランダム化、プラセボ対照第2相試験。同試験は、活動性SLEおよびCLEの両患者を含む2つのループスコホート(AおよびB)を対象としている。
コホートAでは、活動性ループス皮疹を有するCLEまたはSLEの患者に焦点を当てている。CLE研究において明確に定義された、粘膜皮膚症状のさまざまな側面を測定するエンドポイントであるCLASI-Aスコア(活動性CLEの重症度評価指標)を用いて臓器特異的な疾患活動性を評価した。コホートBでは、BICLA反応エンドポイントを用いて、SLE患者の全身疾患活動性に対するエンパトランの効果を評価するようデザインされた。
活動性ループス皮疹を有するCLE・SLE患者で皮膚病変に対する有効性を確認
コホートAは主要評価項目を達成し、用量反応関係が示された。16週目において、臨床的に意味のあるCLASI-Aスコアの改善が認められた(p=0.0002)。また、16週目にはエンパトランを投与された患者の最大91.3%がCLASI-50(ベースラインから50%以上の改善)を達成し、最大60.9%がCLASI-70(70%以上の改善)をクリアした。これに対し、プラセボ群ではそれぞれ38.5%および11.5%だった。
さらに、コホートAにおいてエンパトラン投与により、2週目からインターフェロン遺伝子シグネチャースコアが急速に低下し、24週目まで維持されたことから、生物学的活性が確認された。また、CLEにおけるインターフェロン活性化にTLR7/8経路が関与していることが確認された。
このコホートでは、エンパトランの忍容性は良好だった。また、これまでの試験と一致した管理可能な安全性プロファイルを示し、新たな安全性シグナルは特定されなかった。
SLEの全身疾患に対しても有望な結果
コホートBでは、主要評価項目である用量反応性は達成されなかったものの、事前に規定したサブグループにおいて有望な有効性の結果が示された。このコホートの全ての結果は、2025年の欧州リウマチ学会(EULAR 2025)で発表される予定だ。
同社は「本試験によって、ループス皮疹を有する患者においてエンパトランの臨床的に意味のある有効性と良好な安全性プロファイルが確認された。これらの結果に基づく国際共同第3相試験について規制当局との協議を進めている」と、述べている。
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