L-アルギニン塩酸塩の経口投与、ALS患者の安全性・栄養状態に与える影響は?
広島大学は2月18日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者へのL-アルギニン塩酸塩投与の安全性および忍容性を世界で初めて検証した結果を発表した。この研究は、同大医系科学研究科脳神経内科学の内藤裕之助教、中森正博助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。

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ALS患者における栄養管理は、生命予後に大きな影響を及ぼすとされている。体重減少は疾患の進行と関連し、高カロリー・高脂肪食の有効性が検討されている。しかし、一貫した治療効果は確立されていない。
そこで今回の研究では、L-アルギニン塩酸塩の経口投与がALS患者の安全性および栄養状態に与える影響を検証した。L-アルギニン塩酸塩は、タンパク質を構成するアミノ酸の一つ。血管拡張や免疫調整、神経保護など多岐にわたる生理的機能を担う。サプリメントや医薬品として利用される。同研究では、広島大学において、単一施設・単一群・前向きオープンラベル試験を実施。20人のALS患者(平均年齢62.0歳、病歴中央値1.9年)を対象に、90日間1日15gのL-アルギニン塩酸塩を投与し、安全性および忍容性を評価した。
重篤な有害事象なし、薬剤遵守率99.7%
研究の結果、90日間の試験を19人が完了し、1人はALS関連症状の進行により75日目に試験を中止した(中止率5%)。治療関連有害事象(TEAE)の発生率は、45日以内に4人(25%)、90日以内に6人(31.6%)であった(高クレアチンキナーゼ血症3例、肝機能異常1例、耐糖能異常1例、高アンモニア血症1例、血管炎1例、食欲不振1例、味覚異常1例)。いずれのTEAEも重篤ではなく、試験の中止や死亡に至らなかった。臨床イベントとして、試験期間中に1人が非侵襲的陽圧換気を導入したが、肺炎や胃瘻造設、気管切開下陽圧換気、死亡例はなかった。L-アルギニン塩酸塩の服薬遵守率は99.7%と高い結果となった。
L-アルギニンを90日投与、BMIや体重減少の進行抑制を確認
L-アルギニン塩酸塩の投与開始から試験終了までの90日間で、体重やBMIの平均変化は-0.37kg、-0.11kg/m²だった。ALS機能評価スケール(ALSFRS-R)スコアは平均-1.7ポイント低下した。体重の変化は筋肉量(p=0.036)、体脂肪量(p=0.016)、Mini Nutritional Assessmentスコア(p=0.033)と有意に相関した。なお、Mini Nutritional Assessmentスコアは、高齢者や慢性疾患の患者の栄養状態を評価するための国際的なスクリーニングツール。介入90日後の血漿および尿中アルギニン濃度、および尿中アルギニン比(90日目/ベースライン)の増加は、体重増加群で体重減少群と比べて有意に高い結果であった(p=0.020, p=0.020, p=0.019)。
ALSへのL-アルギニン塩酸塩投与、有効性を詳細検討へ
今回の研究結果より、L-アルギニン塩酸塩のALS患者に対する有効性をより詳細に検討するため、大規模な無作為化比較試験(RCT)の実施が求められる。また、研究グループは、栄養状態と神経変性の関係を明らかにするため、バイオマーカーの解析を進める予定だとしている。
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