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新しい機序の抗アレルギー薬候補発見、マスト細胞を直接標的に-山梨大ほか

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2024年05月20日 AM09:20

既存の抗アレルギー薬、マスト細胞そのものに対しては抑制作用がない

山梨大学は4月11日、種々のアレルギー性疾患の治療薬となり得る新しい低分子化合物MOD000001を開発したと発表した。この研究は、同大大学院総合研究部医学域免疫学講座の中村勇規准教授、中尾篤人教授、アリヴェクシス株式会社らの研究グループによるもの。研究成果は、「JACI: Global」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

花粉症や喘息、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、じんましんなどのアレルギー疾患は、花粉やダニなどの環境中のアレルゲンによって「」と呼ばれる免疫細胞が活性化し、ヒスタミンなどのアレルギー反応の誘導分子が放出され、炎症が形成されることによって起こる。既存の抗アレルギー薬である抗ヒスタミン剤や副腎皮質ホルモンなどは、マスト細胞や他の免疫細胞からのアレルギー反応誘導分子を標的としており、それらの作用を阻害することにより効果を発揮する。ただこれらの既存の薬剤では、アレルゲンによるマスト細胞の活性化そのものに対する抑制作用がないため、あくまで対症療法であり、薬剤を中止すると比較的すぐにアレルギー症状が再発することが知られていた。

マスト細胞表面上に発現するKIT受容体に着目、特異性の高い阻害剤は未開発

マスト細胞の活動性や生存は、KITというマスト細胞表面上に発現している受容体分子の働きにより制御されている。よってKITの作用を特異的に阻害することにより、マスト細胞の活動性や体内における数を減らす、新規の抗アレルギー薬を創出できることが考えられた。特に、花粉症や喘息・アトピー性皮膚炎・食物アレルギー・じんましんなどのアレルギー疾患患者の鼻粘膜や気管支・皮膚・腸管では、健常人に比べてマスト細胞の数が増加していることが知られているため、病変部でのマスト細胞数を減らすことによって、アレルギー症状を強力かつ長期的に緩和できることが期待された。一方、これまでアレルギー疾患以外の病気、主には白血病やがんなどの細胞増殖性疾患の治療を目的として、いくつかのKIT阻害剤が開発されていたが、いずれもKIT特異性に乏しく、副作用の頻度が高いことが問題となっていた。そこで研究グループは、KIT特異性が極めて高い低分子KIT阻害剤を開発し、アレルギー疾患の新たな治療薬としての可能性を検討することとした。

分子動力学シミュレーションで低分子化合物候補探索、実験でMOD000001同定

研究グループは、最新のスーパーコンピューターを利用した分子動力学シミュレーションによって、精度高く高速に化合物選定や目的タンパク質への結合能を評価できるシステムなどの独自の創薬プラットフォームを用いることにより、KIT受容体に選択的に結合する低分子化合物候補を複数個見出した。さらに試験管内での実験により、その中から、KITが持つリン酸化酵素活性(マスト細胞の活動性を高め生存を延長させるために重要な生理活性)を選択的かつ強力に阻害する作用を持つ化合物としてMOD000001を同定し、さらなる検討を進めた。

じんましんモデルマウスにMOD000001経口投与で症状大きく軽減、副作用無し

マウス骨髄由来培養マスト細胞とヒト末梢血幹細胞由来培養マスト細胞を用いた実験により、MOD000001が、SCF(KIT受容体に結合し活性化する生体内分子)やアレルゲンによるマスト細胞の活性化や生存の延長、マスト細胞の遊走活性などを顕著にかつ特異的に阻害することが示された。また、マウスじんましんモデルを用いた実験によって、MOD000001の経口投与が、アレルゲンによって惹起されるじんましんを著明に軽減することが見出された。さらに、MOD000001の長期経口投与によりマウス皮膚におけるマスト細胞数の減少も確認された。なおMOD000001の長期投与によるマウスへの副作用は観察されなかった。

既存薬で反応しない患者にも効果期待できる可能性

これまでアレルギー疾患の主たる治療薬は、免疫細胞が産生するアレルギー反応誘導分子を標的としており、マスト細胞を直接標的とする薬剤はなかった。よってMOD000001は全く新しい機序による抗アレルギー作用を持つ化合物ということができる。

また本剤は、これまで知られているKIT阻害化合物と比較して格段に優れたKIT特異性を有しており、より高い安全性が期待される。アリヴェクシス株式会社では、経口薬としてMOD000001を元にさらに最適化したKIT特異的阻害化合物をすでに同定し、抗アレルギー薬としての早期の臨床応用を目指した評価を進めており、新規の抗アレルギー薬の実現に加え、マスト細胞が関与するアレルギー疾患以外の疾患(がんや動脈硬化、線維症など)への応用についても検討しているという。

「本剤は、マスト細胞の活動性だけでなく、生存を抑制することにより体内のマスト細胞の数を減らすことが可能なため、本剤の開発により、より強力かつ持続的な抗アレルギー作用、今まで既存の抗アレルギー薬に反応しなかった患者への効果、既存の抗アレルギー薬の減量効果などが期待される。」と、研究グループは述べている。

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