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皮膚筋炎に合併する間質性肺炎、治療標的候補としてIL-6を同定-東京医歯大ほか

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2024年04月15日 AM09:20

間質性肺炎を合併する抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎、病態形成する免疫機構は未解明

東京医科歯科大学は4月11日、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎患者の間質性肺炎を模した新規モデルマウスを確立し、この疾患が自己反応性CD4ヘルパーT細胞で引き起こされていること、間質性肺炎成立には炎症性サイトカインのインターロイキン‐6()が重要な働きをしており、特異的治療標的になりうることを突き止めたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野の沖山奈緒子教授、市村裕輝非常勤講師(兼 東京女子医科大学膠原病リウマチ内科学分野助教)、大阪大学大学院医学系研究科皮膚科学教室の藤本学教授、免疫学フロンティア研究センターの竹田潔教授、香山尚子准教授、筑波大学医学医療系皮膚科学の乃村俊史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

膠原病の一つである皮膚筋炎では、特徴的な皮疹と筋力低下を来す筋炎が主要な症状だが、特異的自己抗体(筋炎特異的自己抗体)がいくつか同定されており、その筋炎特異的自己抗体ごとに臨床症状の特徴があるとわかってきたことが、診療方針を考えるうえで役立っている。例えば、抗TIF1γ抗体陽性皮膚筋炎の成人患者の多くで悪性腫瘍が見つかり、がん治療と並行して行う皮膚筋炎の治療法選定が難しくなっているが、研究グループでは、この抗TIF1γ抗体陽性皮膚筋炎を模した筋炎モデルマウスを確立し、その解析を進めている。これまでに、このTIF1γ誘導筋炎マウスモデルでは、CD8キラーT細胞が筋炎を引き起こしており、抗TIF1γ抗体そのものには病原性がないことが示されている。

一方で、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎患者では、内出血を伴う特徴的な皮疹を呈するため、専門医にとって診断は比較的容易であり、また、筋炎はないか軽度である一方、間質性肺炎を合併する。この間質性肺炎は、時に急速進行性で致死的である点が臨床的課題になっているが、肺という臓器の特性上もあり、病態生理解明は十分に行われておらず、高用量ステロイド投与などの非特異的免疫抑制療法を集学的に行うことで救命率改善の努力が図られるにとどまっている。MDA5は本来、細胞内ウイルスセンサーであり、2本鎖RNAウイルスを認識して自然免疫応答を誘導するための分子であるため、ウイルス性上気道感染症が発症契機になることが想定されているが、多くの膠原病と同様に、発症機構は証明されていない。末梢血検体解析などにより、I型インターフェロン(IFN)発現が上昇していることは示唆されており、また、抗MDA5抗体の抗体価や炎症を示す血清フェリチン値が病勢に応じて上昇すると言われている。しかし、病態を形成する免疫機構の全貌や、抗MDA5抗体そのものに病原性があるのかなどはわかっておらず、その解明の一助となるモデル動物も確立していなかった。

MDA5への自己免疫誘導マウス、ウイルス感染症を模した免疫賦活剤で間質性肺炎に

今回、マウスMDA5全長タンパク質を、構造や翻訳後修飾も哺乳類に近い形で精製し、免疫賦活剤と共にマウスへ投与して免疫を惹起することで、マウスMDA5への自己免疫を誘導させた。さらに、ウイルス感染症を模した免疫賦活剤を経鼻投与すると、1日で回復する肺傷害が惹起できるが、MDA5に対する自己免疫が成立しているマウスでは、肺間質での炎症が延長し、線維化を伴って、間質性肺炎を呈してくることを見出した。

間質性肺炎合併マウスの解析からCD4ヘルパーT細胞が病原となる自己免疫疾患と証明

この間質性肺炎を起こしたマウスの傍気管支領域には特にCD4ヘルパーT細胞が浸潤しており、さらに、間質性肺炎を起こしたマウスのCD4ヘルパーT細胞を健康なマウスに移入すると肺炎を再現することができるが、CD8キラーT細胞や免疫グロブリンIgGの移入では再現できないということから、この疾患モデルは、CD4ヘルパーT細胞が病原性細胞である、自己免疫疾患であることが証明された。実際に、CD4除去抗体治療でこの間質性肺炎発症が抑えられること、一方で、抗体を産生するB細胞系列を遺伝的に欠損しているマウスではこの間質性肺炎を発症できる、つまりB細胞はこの間質性肺炎発症に必須ではないことも見出している。

抗IL-6受容体抗体療法によりマウスの間質性肺炎を治療可能

さらに、間質性肺炎症惹起初期と完成時との肺組織を解析し、初期にはI型IFN反応性タンパク質Mx1発現が上昇していて、I型IFN受容体を遺伝的に欠損しているマウスではこの肺炎を誘導できないものの、IL-6の発現は間質性肺炎成立まで一貫して上昇が顕著であること、さらにはIL-6標的療法である抗IL-6受容体抗体療法が間質性肺炎を治療できることを見出している。

自然免疫活性化が「土壌」MDA5特異的CD4T細胞が「種」、+IL-6で間質性肺炎

これらの結果は、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺炎では、発症初期にはウイルス感染症や免疫賦活剤経鼻投与によって引き起こされる、I型IFN発現など自然免疫活性化が間質性肺炎の「土壌」として重要であり、MDA5特異的CD4ヘルパーT細胞が間質性肺炎の「種」として病態を形成しており、さらに線維化を伴う間質性肺炎成立にはIL-6が必要で、このIL-6はこの疾患における治療標的のひとつであることを示唆している。

抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の患者では、間質性肺炎が命を脅かす。「本モデルマウスが確立したことによって、肺局所を含めた詳細な免疫機構を解析することが可能になり、疾患に最適な新規治療ストラテジーの開発に結び付くことが期待される」と、研究グループは述べている。

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