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抗がん剤耐性の大腸がんにTEAD/TNF阻害剤が有効な可能性-東京医歯大ほか

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2024年03月19日 AM09:20

腫瘍浸潤部の微小環境を模倣したヒト大腸がん培養系を開発

東京医科歯科大学は3月13日、大腸がんにおいて遠隔転移や抗がん剤耐性に重要と考えられている腫瘍微小環境の中で、特定の細胞外基質を起点とするシグナル経路を明らかにしたと発表した。この研究は、同大統合研究機構再生医療研究センター油井史郎准教授と、ルーヴェンカトリック大学消化管腫瘍学Sabine Tejpar教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

現在、大腸がんにおける遠隔転移や抗がん剤耐性獲得のプロセスにおいて、がん細胞の胎児上皮様の性質との関わりや、この変化における腫瘍微小環境の関わりが注目を集めているが、この細胞運命転換の詳細はわかっておらず、制御不能な微小環境は大腸がん治療の大きな障壁となっている。

研究グループはこれまで、正常腸管上皮の炎症時に、間質に上皮の支持組織であるI型コラーゲンが増生することにより、その上を覆う上皮細胞内でYAPが活性化し、胎児上皮様の性質が誘導されることを世界で初めて報告するなど、病的な微小環境の中でも、とりわけ細胞外基質の影響に関して研究を進めてきた。

この知見をもとに、正常細胞と異なる特有のゲノム変異を有する大腸がん細胞で、特定の細胞外基質とのコンタクトが、どのような影響を与えるのかを評価することで、腫瘍微小環境のがんにおける役割を明確にすることができると考え、今回、腫瘍先進部でも豊富に見られるI型コラーゲンを主体とする細胞外基質を使用したヒト大腸がんの培養系を新規に構築し、大腸がんにおける腫瘍微小環境の詳細を解析した。

I型コラーゲンが豊富な微小環境では、大腸がん細胞でもYAPが活性化

研究グループは、がん中心部では高分化型がん腺管の周囲には基底膜タンパク質であるラミニンが認められる一方、がん先進部の低分化型がん周囲の間質には、、ヒアルロン酸が認められることに着目。そこで、I型コラーゲンにIV型コラーゲン、ヒアルロン酸を配合したゲル(HCゲル)を新規に開発し、ヒト大腸がんの培養を行い、RNAシーケンス、ATACシーケンス解析を施行し遺伝子発現やエピゲノムについて網羅的に解析した。

その結果、この培養系で培養した大腸がん細胞はがん先進部の低分化がん胞巣、蔟出と類似した性質を呈することが明らかになり、I型コラーゲンが豊富な微小環境においては大腸がん細胞でもYAPが活性化し、胎児上皮様の性質が誘導されることや、TNFが胎児上皮様の性質を形成する中心的なハブ遺伝子となることを明らかにした。

遺伝子変異を有するがん細胞も、特定の細胞外基質との接触で胎児上皮様の性質を獲得

さらに、その機序として、AP-1やTEADの活性化、腸管上皮細胞らしさを維持するのに必要なCDX2やHNF4Aの転写活性の抑制があることを明らかにした。

同結果は、遺伝子変異を有するがん細胞においても、正常上皮と同様、特定の細胞外基質と接触した際に胎児上皮様の性質が獲得されることを示している。なお、この胎児上皮様の性質はRAS変異陽性群でより顕著となり、がん細胞の遺伝子変異プロファイルとも関連があることを示唆する結果だった。

TEADやTNF阻害で、通常の抗がん剤に耐性をもつがん細胞を効率的に除去可能

研究グループは今回の研究の重要な点として、標準的な抗がん剤に高い耐性を示す胎児上皮様の性質を有する大腸がん細胞が、/TEADの相互作用を阻害するTEAD阻害剤や、最大のハブ遺伝子であるTNFの阻害剤に対して非常に感受性が高く、容易に殺傷できることを示した点を挙げている。

進行した大腸がん治療の革新につながる可能性

今回の研究成果の意義は、大腸がんというゲノムの変異に伴う病態の進展に、腫瘍微小環境の関わりがあるという既知の知見を深め、腫瘍微小環境を構成する細胞外基質の役割を、機序とともに明らかにした点にある。同研究成果は、現在注目されている大腸がん病理検体の空間的トランスクリプトーム解析により得られる膨大なデータを理論的に捉える上で、重要な知見になると考えられる。

「本研究で提示した機械的刺激を介したYAP制御機構は、大腸がん治療の新たな治療標的であり、特に進行した病期の大腸がん治療の革新につながる高いポテンシャルを有している」と、研究グループは述べている。

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