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なぜ中年太りするのか?加齢に伴う脳の変化をラットで解明-名大ほか

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2024年03月12日 AM09:00

全身の代謝低下が原因とされる加齢性肥満、メカニズムは未解明だった

名古屋大学は3月7日、加齢性肥満(中年太り)の原因となる脳の仕組みを世界に先駆けてラットで発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科統合生理学分野の大屋愛実助教、中村佳子講師、中村和弘教授、大阪大学医学部附属動物実験施設の宮坂佳樹助教、東京大学医科学研究所の真下知士教授、名古屋大学環境医学研究所の田中都講師、菅波孝祥教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Metabolism」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

肥満は糖尿病や高血圧などのさまざまな生活習慣病につながることから大きな健康問題となっている。特に、欧米型の高カロリーの食事が普及し、飽食が進む現代では、加齢に伴い太りやすくなる加齢性肥満(いわゆる中年太り)の発症メカニズムの解明は喫緊の課題である。これまでの研究から、加齢性肥満の原因として全身の代謝の低下が挙げられているが、加齢に伴って代謝が低下する原因やメカニズムはわかっていなかった。

視床下部で抗肥満機能を持つとされるMC4Rに着目、ラットで加齢に伴う局在変化を解析

研究グループは、代謝や摂食を調節する脳の視床下部に存在し、抗肥満機能を持つメラノコルチン4型受容体(MC4R)に着目した。体内に脂肪が蓄積すると白色脂肪細胞からレプチンというホルモンが分泌され、視床下部に作用する。視床下部のニューロン(神経細胞)に存在するMC4Rは、レプチンの作用によって視床下部内で分泌されるメラノコルチン(飽食シグナル分子)を受容し、そのニューロンの伝達活動を活性化することによって神経回路を作動させ、代謝量や熱産生(脂肪燃焼)量を増やすとともに食べる量を減らすことで抗肥満作用を示す。

MC4Rを欠損したマウスは著しい肥満を呈することから、MC4Rは抗肥満メカニズムにおいて重要な役割を担っていることがわかる。研究グループは、世界初の、信頼性の高い、MC4Rタンパク質を可視化できる抗体を作製し、ラットの視床下部においてMC4Rの局在が加齢に伴ってどのように変わるかを解析した。

MC4Rが局在するニューロンの一次繊毛は加齢で徐々に退縮、高脂肪食では退縮速い

研究グループはまず、作製したMC4R抗体を使ってMC4Rタンパク質がラットの脳のどこにあるかを調べた。その結果、MC4Rは視床下部のみに存在し、その中でも視床下部室傍核および視床下部背内側部のニューロンの一次繊毛というアンテナ状の構造体に局在していることがわかった。

MC4Rの局在が加齢に伴ってどのように変化するかを調べるために、さまざまな週齢のラットの脳を観察したところ、離乳する3週齢以降、加齢に伴ってMC4R局在一次繊毛が徐々に退縮する(短くなる)ことがわかった。一方、MC4Rを持たない一次繊毛は退縮しなかった。次に、さまざまな栄養条件下で飼育したラットで解析を行ったところ、高脂肪食で飼育したラットでは加齢に伴う退縮のスピードが速くなっていた。反対に、摂餌量を制限したラットでは加齢に伴う退縮が抑えられていた。さらに、加齢によって一旦消失したMC4R局在一次繊毛であっても、摂餌量を制限することによって再生することもわかった。

強制的にMC4R局在一次繊毛を退縮させた若いラット、体重と体脂肪率が著しく増加

そこで、遺伝子改変ラット(MC4R-Creノックインラット)とアデノ随伴ウイルスを使って、若いラットにおいてMC4R局在一次繊毛だけを強制的に退縮させたところ、飽食シグナル分子であるメラノコルチンへの感度が低下し、代謝量と熱産生(脂肪燃焼)量が減る一方で食べる餌の量は増え、結果として体重と体脂肪率の増加量が対照ラットに比べて著しく上昇した。反対に、同様の遺伝子技術を使って、MC4R局在一次繊毛の加齢による退縮を抑制すると体重増加が抑制された。

メラノコルチンの慢性的な作用がMC4R局在一次繊毛の退縮促進を引き起こすと判明

次に、MC4R局在一次繊毛の退縮メカニズムの解明を試みた。まず、レプチンを介する飽食シグナルが減弱したZucker fatty変異ラット(レプチン受容体遺伝子変異ラット)を解析した。このラットは著しい肥満を呈することから、当初、MC4R局在一次繊毛の退縮が進行しているものと予想されたが、意外なことに、その退縮が抑制されていた。このことから、レプチンの作用によって分泌されるメラノコルチン自体がMC4R局在一次繊毛の退縮を促進するのではないかと考えた。そこで、通常の野生型ラットにおいて、長期間にわたるレプチンの投与や、あるいは遺伝子技術を使って視床下部のニューロンにメラノコルチンが作用し続けているような状態を作りだすと、加齢に伴うMC4R局在一次繊毛の退縮が加速することがわかった。これらの結果から、レプチンが持続的に作用するような状況では、メラノコルチンがMC4Rへ慢性的に作用するようになり、MC4R局在一次繊毛の退縮が促進されることが示された。

レプチン抵抗性、MC4R局在一次繊毛の退縮が原因である可能性

さらに興味深いことに、白色脂肪細胞から分泌されるレプチンは食べる量を減らして抗肥満作用を発揮するが、MC4R局在一次繊毛を退縮させたラットは、レプチンを投与しても食べる量が減らないというレプチン抵抗性を示した。レプチンが効かず抗肥満作用が得られないレプチン抵抗性は肥満患者でもよく見られる。それが起こる原因は長らく不明であり、肥満治療の大きな問題だったが、今回の研究により、肥満患者の体内に蓄積した白色脂肪細胞から多量に分泌されるレプチンが引き金で起こるメラノコルチンの慢性的な作用によってMC4R局在一次繊毛が退縮してしまうことが原因である可能性が示された。

MC4R局在一次繊毛の長さが「痩せやすさ」に関わるという発見、今後ヒトでの検証が必要

今回、研究グループは、MC4Rが代謝や摂食を調節する視床下部のニューロンの一次繊毛に局在し、加齢に伴ってその一次繊毛が退縮することを見出した。そして、一次繊毛の退縮によりMC4Rが減少してメラノコルチンに対する感度が低下するため、代謝量が減るとともに摂餌量が増え、加齢性肥満に至るというメカニズムを解明した。つまり、MC4R局在一次繊毛の長さが「痩せやすさ」を決定しており、それが加齢や過栄養(飽食)によって短くなることが肥満につながるということを示している。

メラノコルチンの短期的な作用は抗肥満だが、この研究の実験結果は、過栄養(飽食)状態が続くとメラノコルチンが一次繊毛上のMC4Rに慢性的に作用することにより、視床下部ニューロンのMC4R局在一次繊毛の退縮が促進され、メラノコルチンが効かなくなるという「肥満への負のスパイラル」に陥ることを示している。肥満が進行すると血液中のレプチン濃度が上昇し(高レプチン血症)、そしてレプチン抵抗性の状態に陥る。これは、高濃度のレプチンがメラノコルチンの作用を慢性化させ、視床下部ニューロンのMC4R局在一次繊毛を退縮させるため、抗肥満作用が失われてしまうことが原因である可能性が今回の研究の実験結果から考えられる。

ヒトにおいては、一次繊毛の欠損や機能異常によって発症する遺伝病であるバーデット・ビードル症候群(Bardet-Biedl syndrome)が著しい肥満を呈することが知られており、一次繊毛の欠損や退縮による肥満発症はラットと同様にヒトでも起こると考えられる。研究の結果に照らせば、バーデット・ビードル症候群の肥満の発症に視床下部ニューロンのMC4R局在一次繊毛の欠損が寄与すると考えられる。今後、ヒトの加齢性肥満のメカニズムを追究するため、この研究においてラットで発見した加齢に伴うMC4R局在一次繊毛の退縮がヒトでも起こっているのかを検証する研究が必要である。

生活習慣病予防や画期的な治療法開発につながる可能性

研究グループは今回、一次繊毛が加齢に伴って退縮する現象を世界で初めて発見した。加齢に伴う退縮は他の一次繊毛でも起こっている可能性があり、さまざまな疾患の発症の原因になっている可能性がある。今後、加齢による一次繊毛の構造の変化がどのような分子メカニズムで起こるのかを解明することにより、退縮を防ぐ医薬品の開発への展開が期待される。また、MC4Rを持つ一次繊毛が退縮して飽食シグナルに対する感度を低下させることには何らかの重要な生理的意義があると考えられ、それを解明する基礎研究も今後必要である。またMC4R局在一次繊毛の退縮を抑制する方法として、摂餌制限や遺伝子操作手法を見出した。特に、加齢によって失われてしまったMC4R局在一次繊毛が摂餌制限によって再生したことは、肥満の治療に大きな希望を与える実験結果である。肥満は糖尿病などさまざまな生活習慣病(肥満症)の入口になる病態である。「今後、得られた知見をもとに、生活習慣病を未病の段階で検出し、発症を予防する技術の開発や、肥満の根本的な治療法の開発につなげていきたいと考えている」と、研究グループは述べている。

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