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父親のミトコンドリアが受精直後に除去される仕組み、その一端を明らかに-群馬大ほか

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2024年02月29日 AM09:00

なぜ精子由来のミトコンドリアDNAは排除されるのか、不明点は多い

群馬大学は2月19日、受精後に父性ミトコンドリアが入ってきたことを瞬時に検知し、分解・除去する仕組みの一端を解明したと発表した。この研究は、同大生体調節研究所の佐々木妙子助教、櫛田康晴研究員、佐藤美由紀教授、佐藤健教授、徳島大学先端酵素学研究所藤井節郎記念医科学センターの小迫英尊教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトの体を構成する細胞の内部には、「」と呼ばれる細胞内小器官(オルガネラ)が存在する。ヒトを含む真核生物のほとんどがこのミトコンドリアを持ち、細胞にエネルギーを供給している。ミトコンドリアの機能が低下すると、エネルギーを供給できなくなるために、心臓、骨格筋、脳といったエネルギー供給が必須の器官に異常が生じ、重篤な疾患(ミトコンドリア病)につながることが知られている。

また、ミトコンドリアは、核とは別に独自のDNAであるミトコンドリアDNAを持っている。ミトコンドリアDNAには、エネルギーを作るための遺伝子が多数存在するため、世代を超えて正しく受け継がれる必要がある。一方で、その遺伝様式は核DNAとは異なり、片親(主に母親)からのみ遺伝することが古くから知られている。この現象は「母性(片親)遺伝」と呼ばれ、ほとんどの真核生物に共通して見られる。しかし、受精の際には卵子由来、精子由来の両方のミトコンドリアが存在するにも関わらず、なぜ精子由来のミトコンドリアだけDNAが排除され、母親からのみミトコンドリアDNAが受け継がれるのか、そのメカニズムには不明な点が多く残されていた。

父性オルガネラの選択的消去に必須のタンパク質ALLO-1・IKKE-1の機能解析を実施

そのような中、研究グループは2011年に、線虫C. elegansという生物を用いることで、受精卵において父性ミトコンドリアがオートファジー(自食作用)という仕組みによって選択的に食べられ、細胞内から除去されることを明らかにした。このオートファジーでは精子由来の父性オルガネラが選択的に消去されることから、この現象を非自己(allogeneic)オルガネラのオートファジーとして「アロファジー(allophagy)」と命名した。さらに2018年には、このアロファジーに必須な因子として、ALLO-1とIKKE-1というタンパク質を発見した。

今回、父性ミトコンドリアを選択的に分解・除去する際の、ALLO-1とIKKE-1の役割について研究を行った。まず、ALLO-1について解析を進めたところ、ALLO-は1つの遺伝子から2種類のタンパク質、ALLO-1aとALLO-1bを作っていることがわかった。この2つのタンパク質の配列はほとんど同じで、最後の短い配列だけが異なる。しかし、些細な違いにもかかわらず、ALLO-1aとALLO-1bの役割は異なっており、主にALLO-1bが父性ミトコンドリアの分解を担うことがわかった。

ALLO-1bは受精30秒以内に父性ミトコンドリアを識別、IKKE-1の関与を受け集積

では、ALLO-1bはいつ、どのようにして父性ミトコンドリアを分解しているのか。この疑問に答えるため、研究グループは線虫の受精の様子を生きたまま、動画撮影した。その結果、受精した後わずか30秒以内に、ALLO-1bが父性ミトコンドリアを識別し、父性ミトコンドリアに急速に集まってくる様子を捉えることに成功した。

さらに、IKKE-1の遺伝子が欠けていると、ALLO-1bの集まり方が弱くなり、オートファジーが正常に起こらないことも発見した。すなわち、ALLO-1bがまず父性ミトコンドリアを識別し、さらにIKKE-1の働きにより父性ミトコンドリア周囲に一定レベル以上のALLO-1bが集まることがオートファジーの開始に必須であることがわかった。

父性ミトコンドリアを区別する仕組み、不良ミトコンドリア除去との類似を示唆

今回の研究から、父性ミトコンドリアが受精卵に侵入した際に起こる反応の詳細が明らかとなった。ミトコンドリアDNAの母性遺伝は、ヒトを含めた多くの生物で共通する現象でありながら、その仕組みに不明な点が多く残されている。今回研究グループは、父性ミトコンドリアが受精卵へ侵入したとたんにALLO-1による識別を受けることを発見したが、このことは父性ミトコンドリアに、母性ミトコンドリアとは違う何らかの目印が付いていることを示唆している。今後、この父性ミトコンドリアを他と区別するための目印が何なのかを解析していくことで、母性遺伝の仕組みに迫ることができると期待される。また、注目すべき点として、IKKE-1は、ヒトなど哺乳類において機能不全に陥った不良ミトコンドリアをオートファジーで除去する際に働く、TBK1/IKKεによく似たタンパク質である。このため、父性ミトコンドリアの除去におけるオートファジーの仕組みは、哺乳類における不良ミトコンドリア除去の仕組みに類似していると考えられる。「本研究は、母性遺伝だけでなく、ヒトにおいて疾患や老化の原因ともなる不良ミトコンドリアの除去の仕組みの解明にもつながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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