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糖尿病性腎症の進行と関連するFR-PTC、「ルセオグリフロジン」で抑制-京都府医大

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2024年02月14日 AM09:30

修復不全尿細管は糖尿病関連腎臓病の進展とどのように関与しているのか?

京都府立医科大学は2月7日、糖尿病によって引き起こされる腎臓病()が進行した場合、その周囲に炎症を誘導する細胞群である修復不全尿細管(Failed repair proximal tubular cells:)の割合が腎不全へ進展する強力な予測因子であることを確認し、血糖降下薬であるSGLT2阻害薬「」がFR-PTCの発生を抑制することを証明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科腎臓内科学の草場哲郎助教、八木-冨田彩病院助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

高齢化に伴い腎不全の患者数は全世界で増加しており、患者本人の負担となるだけでなく、国民医療費への影響も考慮すると、腎不全への対応は急務を要する。人工透析を必要とするような末期腎不全の原因となる疾患の第一位は糖尿病に合併する糖尿病関連腎臓病であり、その病態の解明と治療法のさらなる進歩が求められている。腎臓が傷害を受けると、尿の通り道である尿細管と呼ばれる部位の細胞の一部が脱落し、その後生き残った細胞が再生する。しかし、傷害後の修復が不完全な組織では特殊な細胞群であるFR-PTCが出現することが近年の動物実験で明らかになっている。この細胞は周囲に炎症を起こす物質を分泌し、腎不全を進行させることが知られている。これまでの研究では、糖尿病関連腎臓病の病状の進展にFR-PTCが関与するか不明だった。そこで、今回、研究グループは糖尿病患者の腎臓の組織およびマウスを用いた実験により、その機序の解明を試みた。

また血糖降下薬の一つであるSGLT2阻害薬は、腎臓からブドウ糖を排泄させることで血糖値を下げる作用を発揮する糖尿病治療薬である。糖尿病の患者に対してSGLT2阻害薬を用いた臨床試験では、心筋梗塞や脳卒中などの動脈効果に起因する疾患の発症を抑制したのみならず、尿タンパクの減少や腎機能の悪化を防ぐなどの糖尿病関連腎臓病の進行を予防する効果も認めた。そこで、SGLT2阻害薬の一つであるルセオグリフロジンがFR-PTCに及ぼす影響を、進行した糖尿病関連腎臓病マウスを用いた実験により検討した。

患者の腎生検組織を解析、FR-PTCを示すVCAM1陽性率高いほど腎不全進展

今回、研究グループは糖尿関連腎臓病患者24人の腎生検組織を改めて解析し、FR-PTCを示す物質である血管細胞接着分子1(Vascular cell adhesion molecule:VCAM1)の免疫染色を行い、その割合を解析するとともに、腎生検後の腎機能の推移を調べた。するとVCAM1陽性で示されるFR-PTCがヒトの腎臓組織内に存在し、その陽性率が高いほど、腎不全が進展(維持透析の導入、腎機能の40%の低下)する症例が多く認められることが明らかとなった。

疾患進行を模したマウス、組織の酸素不足とFR-PTC誘導に関連

ヒトでは、年余にわたる高血糖の結果、糖尿病関連腎臓病が進行するが、短命であるマウスでは病期の進んだ糖尿病関連腎臓病を再現することは困難だった。そこで、研究グループは肥満糖尿病マウスに対して腎臓の大部分を切除することにより、ヒトで観察される進行した糖尿病関連腎臓病モデルマウスを作成することに成功した。そのモデルマウスでは、ヒトで進行した糖尿病関連腎臓病に確認されるような腎機能の低下と多量のタンパク尿を認めるとともに、腎臓内部では糸球体の高度な傷害、腎臓組織の線維化を認めた。またヒトの腎生検検体を用いた研究で確認されたように、このモデルマウスの腎臓の免疫染色にVCAM1陽性のFR-PTCが散見され、腎臓の組織が酸素不足に陥っていた。さらに酸素不足に曝された腎臓の尿細管細胞では、FR-PTCを示す物質であるVCAM1を発現することを証明した。

「ルセオグリフロジン」、疾患マウスのFR-PTC抑制し腎臓保護効果を発揮

進行した糖尿病関連腎臓病のモデルマウスに対し、研究グループが新規に開発した血糖降下薬の一つであるSGLT2阻害薬「ルセオグリフロジン」を投与し、その腎臓保護効果を調べた。ルセオグリフロジンを投与したマウスの腎臓では、組織の酸素不足が改善され、FR-PTCの出現も抑制されていた。ルセオグリフロジンが尿細管でのナトリウムの再吸収を抑制するために組織の酸素消費量が軽減した結果、組織の酸素不足が改善し、FR-PTCの出現が抑制され、腎臓組織の保護効果が発揮されたと考えられた。またFR-PTCの減少に伴い、腎臓内の炎症や線維化も軽減していた。

SGLT2阻害薬の腎保護メカニズム解明や、新たな創薬開発にもつながると期待

糖尿病関連腎臓病は人工透析に至る腎臓病の原因となる疾患の第一位である。今回の研究では糖尿病関連腎臓病の進展メカニズムを明らかにするために、進行した糖尿病関連腎臓病を模した新たなモデルマウスを解析した。それにより、腎不全の病期が進展することで、1)残った正常な尿細管に過剰な負担がかかる、2)酸素消費の亢進により腎臓組織での酸素不足が起きる、3)尿細管の傷害によりFR-PTCが出現、4)周囲に炎症を巻き起こすことでさらなる腎障害が進展する、という負のループが形成されることを明らかにした。

さらに、SGLT2阻害薬であるルセオグリフロジンの投与は負のループを抑制する効果があるため腎機能障害の進展を予防することが示された。「今回、新たに解明した機序により、SGLT2阻害薬による腎保護メカニズムが明らかになるとともに、新たな標的に対する創薬や疾患予防法などを開発することで、糖尿病関連腎臓病患者の予後をさらに改善させることが期待される」と、研究グループは述べている。

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