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社交不安症、認知行動療法の治療効果を安静時fMRIで予測できる可能性-千葉大

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2024年02月02日 AM09:00

精神疾患の判別や治療効果の予測に活用が期待されるfMRI

千葉大学は1月24日、(functional Magnetic Resonance Imaging、磁気共鳴機能画像法)を用いて測定した視床と前頭極の安静時脳機能ネットワークが、社交不安症に対する認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)の治療反応の強さの予測に利用できる可能性を見出したことを発表した。この研究は、同大子どものこころの発達教育研究センターの栗田幸平特任研究員、平野好幸教授、清水栄司教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Frontiers in Psychiatry」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

社交不安症は、社交場面での他者からの注視や否定的な評価を強く恐れる精神疾患である。治療の第1選択としては、選択的セロトニン再取込阻害薬による薬物療法と、不安を強くする考え(認知)や行動を変える心理療法のCBTである。しかし、CBTの治療機序について、明確になっているとはいえない状態である。

一方、近年の画像解析技術の発展により、脳画像を用いた精神疾患の研究が多く行われるようになってきている。これまでは脳の構造や特定の課題における脳活動状態を計測した研究が多く報告されていたが、安静時の脳活動状態から疾患の特徴や治療反応を予測する研究はあまり進んでいない。安静時の脳活動は特定の課題を必要としないため、課題遂行に関連する影響を気にせずに検証することができる。また、被験者が安静時にfMRIで7分程度計測するだけで、脳内の機能ネットワークを抽出できることから、精神疾患の判別や治療効果を予測するためのバイオマーカーとなることが期待されている。

社交不安症患者20人に12週間CBTを実施、治療前後にfMRI

研究グループは、社交不安症に対するCBTの治療反応が、安静時の脳機能状態から予測できるかを調査した。社交不安症患者20人に対して12週間のCBTを行い、治療の前後にfMRIで安静時脳機能画像を撮像した。さらに、リーボヴィッツ社交不安尺度()を用いて、社交不安症の重症度を評価した。点数が高いほど、症状が強くあると判断する。

視床と前頭極の安静時脳機能ネットワークの強さが、CBTによる治療反応を65%説明

CBTの前後でLSASによる評価の結果、社交不安症の重症度は平均82.6点から38.2点と、有意に下がった。さらにLSASの改善量と関連する脳領域を、治療前の安静時脳機能画像を用いたマルチボクセルパターン分析により同定。脳の両側の視床の安静時脳機能画像信号のパターンが、LSASの改善量と関連することが明らかになった。

次に、治療反応を予測する脳内ネットワークを探索するために、両側視床に関連した脳の機能的な結合を用いて回帰分析を実施した。その結果、視床と前頭極の安静時脳機能ネットワークの強さが、CBTによる治療反応を65%説明することができ、予測因子の候補となることを発見した。この脳内ネットワークを用いた予測精度は、CBT前のLSASの点数を用いた予測精度よりも高い結果を示した。

CBT後に視床の活動が上昇し前頭極の活動が軽減したことで、重症度が低下と示唆

さらに、CBT後の脳内ネットワークの変化を捉えるため、両側視床における活動変化を治療前後で比較した。CBT前後の群間比較の結果、CBT後に視床と前頭極のネットワークが低下することが明らかになった。このことは、CBTにより視床の活動が上昇したことで、共に情動を制御している前頭極の活動が軽減され、安静時脳機能ネットワークが低下したことを示唆している。

「研究成果の活用により、治療前に撮像した脳fMRI画像が、今後CBTを受ける社交不安症患者の治療効果を予測するバイオマーカーとなる可能性がある」と、研究グループは述べている。

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