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周産期疾患の病態解明につながる発見、ヒト胎盤形成に重要な遺伝子を同定-東北大ほか

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2023年12月19日 AM09:30

ヒト胎盤、栄養膜細胞の分化制御機構は未解明

東北大学は12月14日、独自に樹立したヒト胎盤幹(TS)細胞を用い、ヒト胎盤の発生や分化に必須である遺伝子を系統的、網羅的に探索し、その制御機構の全体像を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科婦人科学分野の清水孝規大学院生、齋藤昌利教授、情報遺伝学分野の小林枝里助教、有馬隆博教授、熊本大学発生医学研究所胎盤発生分野の岡江寛明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載されている。


画像はリリースより
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胎盤は、妊娠中の胎児の正常な発育に不可欠であり、また母体の健康維持のために重要な臓器である。この胎盤の形成障害や機能の異常は、さまざまな妊娠中の病気と関連している。これまでの胎盤研究は、主に動物実験から得られた知見に基づいていた。しかし、動物種により胎盤の形態や構成する細胞が大きく異なるため、実験動物で明らかとなった細胞の働きやその作用機序(遺伝子機能)がどの程度ヒトに当てはまるのかについては明確ではなかった。

ヒト胎盤は、主に3種類の栄養膜細胞から構成されている。未分化な細胞性栄養膜(CT)細胞、母体から胎児へ栄養や酵素を運搬する働きを担う合胞体栄養膜()細胞、そして子宮内に浸潤し、母体からの血液を胎盤に取り込む血管の形成を担う絨毛外栄養膜()細胞で、CT細胞は、高い増殖能をもち、STおよびEVT細胞に分化することがわかっている。しかしこれまで、栄養膜細胞の分化を制御する仕組みはほとんど明らかにされていなかった。

TS細胞のCRISPRスクリーニングにより、胎盤の形成に重要な遺伝子を同定

研究グループは以前、世界で初めてTS細胞を樹立し、この細胞がヒト胎盤の研究に有用であることを報告してきた。今回、このTS細胞に遺伝子工学的技術であるCRISPRスクリーニング法を応用することで、数百の遺伝子を対象にした遺伝子機能解析を行い、胎盤の発生、分化に必要な遺伝子の系統的な同定を試みた。

DLX3とGCM1、下流の遺伝子の発現を促しST・EVT細胞の分化を制御

その結果、多数の転写因子が胎盤の形成に重要であることを明らかにし、特にDLX3とGCM1が、ST細胞とEVT細胞の両方の細胞への分化に中心的な役割を果たすことを明らかにした。DLX3は、ヒト・マウスにおいて、頭頸部の発生に重要な働きを担っていることがわかっているが、ヒト胎盤での働きについては報告されていなかった。GCM1は、マウスの胎盤形成において重要な役割を担っており、ヒト胎盤ではST細胞の分化に関与していることが示唆されている。

次に、網羅的なエピゲノム解析により、DLX3とGCM1がどのような仕組みで分化を制御するのかについて調べたところ、両者は標的遺伝子の活性エンハンサー領域に結合することで、下流の遺伝子の発現を促し、栄養膜細胞の分化を制御することが明らかになった。

マウス胎盤や絨毛がん細胞と異なり、ヒト胎盤の分化では協調的に作用する可能性

従来の絨毛がん由来細胞株を用いた研究では、DLX3とGCM1は相反しながら働いているとされてきたが、今回、ヒト胎盤の分化において両者はむしろ協調的に作用するという新しい仮説が提唱された。また、二つの転写因子は、マウスの胎盤においては異なった働きをしており、動物種ごとに胎盤の発生と分化の機序が異なっていることが示唆された。

周産期疾患の病態解明や治療法開発への応用に期待

「本研究成果は、ヒト胎盤細胞の発生、分化における分子機序の基礎的な理解を深めるだけではなく、周産期疾患(妊娠高血圧症候群や子宮内胎児発育不全など)の病態解明やその治療法、予防法の開発への応用が期待できる。さらに、哺乳類の胎盤の多様化をもたらした分子機構の理解にも役立つと考えられる」と、研究グループは述べている。

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