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重症潰瘍性大腸炎の第一選択療法として「先端治療」が有用と判明-関西医科大ほか

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2023年12月08日 AM09:00

入院患者の第一選択としての生物学的製剤/低分子化合薬の有用性は?

関西医科大学は12月6日、急性重症潰瘍性大腸炎に対する第一選択療法としての生物学的製剤・低分子化合薬の有用性を、世界で初めて報告したと発表した。この研究は、同大内科学第三講座 長沼誠教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Gastroenterology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

潰瘍性大腸炎は若年に発症し、生涯にわたって治療の継続を余儀なくされる難病であることから、新規治療法開発により再燃や入院機会を抑制することが必要だ。治療抵抗例に対する治療法については日本の治療指針には多くの治療法が並列して記載されており、治療法選択については明確な記載がない。特に、入院を要する重症例に対する治療法についてはエビデンスが少なく、経験に基づいた治療法が行われているのが現状だ。入院を要する急性重症潰瘍性大腸炎に対する治療法として、海外では第一選択療法としてステロイド大量静注療法が推奨されており、国内の治療指針もステロイド治療を提唱している。一方で、治療指針では外来でステロイド治療を行った場合で症状の改善が見られない場合には、入院してステロイド大量静注療法を行う、もしくは別の治療を行うという2つのオプションが記載されている。実臨床の現場では、ステロイド依存例や過去にステロイドを頻回使用している症例に対しては、安全性や治療効果に関する懸念よりステロイド治療の選択をスキップしてステロイド以外の治療法を選択することが行われてきた。しかし、これまで入院患者に対する第一選択療法としての生物学的製剤や低分子化合薬などの先端治療の有用性に関する報告は、世界的に見ても存在していないのが実情だ。

そこで研究グループは今回、日本医療研究開発機構「エビデンスに基づいた難治性炎症性腸疾患に対する治療ポジショニングの構築」の研究プロジェクトとして、入院を要する活動性潰瘍性大腸炎に対する治療エビデンスを構築するための多施設共同前向き観察研究を行った。

入院後の第一選択療法のうち、45.7%が先端治療

研究では、2020年8月~2021年7月までに国内39施設の潰瘍性大腸炎の症状悪化のために入院し、第一選択としてステロイドもしくは血球成分吸着除去療法、、ベドリズマブ、、トファシチニブを使用した症例のうち、急性重症潰瘍性大腸炎の診断基準に合致した221例を対象とした。

このうち入院後、第一選択療法としてステロイドが選択された症例は120例、ステロイド以外の先端治療が選択された症例が101例で、45.7%が先端治療を選択されていた。先端治療を選択した症例(先端治療群)の臨床的特徴として、ステロイド治療群より、罹病期間が長い、ステロイド依存例や入院12か月以内に2回以上再燃した症例の割合が高い、試験登録時にステロイドを使用していた患者の割合が高い、などが抽出されたが、一方で、臨床的・血清学的な重症度は両群で差は認められなかった。

臨床的重症度が有意に改善、入院後の第一選択療法としての有用性確認

入院直後の第一選択療法の治療成績は、7日目、14日目の寛解導入率はステロイド群22.5%、35.0%、7日目、14日目の臨床的改善率は45.0%、52.5%だった。ステロイド群の14日目寛解導入に寄与する独立した因子として、登録前にステロイド未使用例、登録時の臨床的活動度が低いことが挙げられた。一方、先端治療群では7日目、14日目の寛解導入率は16.8%、29.7%、7日目、14日目の臨床的改善率は39.6%、43.6%だった。先端治療の治療内容としては、タクロリムス、インフリキシマブを選択している症例が多く、次いで血球成分吸着除去療法、ウステキヌマブ、、ベドリズマブの順に選択されていた。タクロリムス、トファシチニブの登録時の臨床的重症度は高い傾向にあった。先端治療群全体において、3日目の臨床的重症度は有意に改善していること、タクロリムス、インフリキシマブ、血球成分吸着除去療法、ウステキヌマブ、、ベドリズマブ、ゴリムマブそれぞれの治療単独の解析でも14日目の臨床的重症度が有意に改善していることが確認され、入院後の第一選択療法としての先端治療の有用性が確認された。

2番目の先端治療の選択の是非については、慎重さが求められる結果に

入院後第一選択療法としてステロイドを選択した120例のうち、ステロイドの効果が不十分で先端治療を選択した症例は48例で、このうち79.2%の症例でインフリキシマブもしくはカルシニューリン阻害剤が選択されていた。7日目、14日目の寛解導入率は14.6%、43.8%、7日目、14日目の臨床的改善率は37.5%、58.5%であり、インフリキシマブもしくはカルシニューリン阻害剤を中心としたステロイド効果不十分例に対する先端治療の治療成績は比較的良好だった。

一方で、入院後第一選択療法として先端治療を選択、もしくは上述のステロイド効果不十分例に対して先端治療を選択するも治療効果がなく、2番目の先端治療を選択した症例は25例で、ウステキヌマブ、インフリキシマブ、トファシチニブが主に選択されていた。7日目、14日目で寛解導入された症例はなく、また最終的に手術を要した例も28%だった。一部の症例では有効性も確認されたが、2番目の先端治療の選択の是非は慎重に検討されるべきであると考えられた。また同コホートでは、サイトメガロウイルス再活性化、カテーテル関連感染症、軽度の腎機能障害・肝機能障害などの有害事象が認められたが、死亡例や結核、肺炎は観察期間内では認められなかったという。

入院前にステロイドを使用していた症例は、ステロイド増量より先端治療が望ましい

入院前にステロイドを使用していた78例中、入院後に第一選択療法としてステロイドを継続・増量した症例(ステロイド増量群)は28例であり、ステロイド使用量の中央値が1日あたり60mgであることより、十分なステロイド量の治療がなされていると考えられた。また、残りの50例はステロイド以外の先端治療が選択されていた。7日目の寛解導入率は両群で差は認められなかったが、14日目の寛解導入率は先端治療群で有意に高く、手術を要した症例も低い傾向にあった。以上より、入院前にステロイドを使用していた症例では、ステロイドを増量するより先端治療を選択した方が望ましいことが示唆された。

さらに、研究グループは同研究結果を踏まえ、先端治療を含めた入院を要する潰瘍性大腸炎患者の治療戦略のフローチャートを作成した。

第一選択療法としての先端治療の有効性を示す、世界初の報告

これまで急性重症潰瘍性大腸炎に対する先端治療については、ステロイドによる治療効果が得られない場合の第二選択療法として位置付けられており、第一選択療法としての先端治療に対する有効性を報告した研究はなかった。また、入院を要する潰瘍性大腸炎患者に対してステロイドおよび先端治療の有効性・安全性を検討した前向きコホート研究は存在しなかった。「本研究成果は今後、国内外の診療ガイドラインに反映される可能性があると考えられ、社会的に意義のある研究成果であると考えられる」と、研究グループは述べている。

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