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妊婦の職業での抗がん剤取り扱い、3歳までの子の白血病発症に関連の可能性-九大

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2023年10月11日 AM10:25

放射線や抗がん剤等の取り扱い、子の1歳までの発がんに明確な関連ないが乳児期以降は?

九州大学は10月6日、エコチル調査の約10万人のデータを使用して、両親が職業で取り扱った医療用物質と3歳までの小児がんの関連について解析した結果を発表した。この研究は、同大小児科エコチル調査福岡ユニットセンターの山本俊亮大学院生、古賀友紀准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Blood」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしている。

エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。

小児がんはまれだが、命を脅かす可能性がある。はっきりとした原因はわかっていないが、これまでの研究でいろいろな環境因子の関与が指摘されている。さまざまな職業の中で、医療従事者は、放射線や抗がん剤のような有害な影響を与えうる物質を業務として取り扱うことがある。

以前、研究グループは、両親が職業で取り扱った医療用物質と出生した子どもの1歳までのがんの発生について解析した。1歳までの調査では、両親の医療用物質の取り扱いと乳児期の白血病と脳腫瘍の発症の間に明らかな関連は見られなかった。しかし、乳児期に生じるがんと1歳以降に生じるがんは、しばしばその特徴が異なることが知られており、妊婦が職業で取り扱った医療用物質と、出生した子どもにおける乳児期以降の小児がんの発症との関連を報告した研究はなかった。

3歳までの小児がん発生と両親の医療用物質取り扱いの関連をエコチル調査データで解析

今回の研究では、両親が職業で取り扱った医療用物質と出生した子どもの3歳までのがんの発生に関連があるかを調査した。調査では、約10万組の妊婦と出生した子どもおよび約5万人の父親のデータを使用した。解析対象は、性別・出生体重・親の医療用物質の取り扱い・子どものがんに関するデータが揃っている9万3,207人の子どもとした。

約9万3,000人の妊婦のうち、妊娠期間中に、放射線を2,145人(2.3%)、抗がん剤を1,291人(1.4%)、麻酔薬を1,005人(1.1%)が半日以上・最低月1回以上の頻度で取り扱っていた。生まれた子ども約9万3,000人のうち、3歳までに29人の白血病、7人の脳腫瘍が発生していた。

抗がん剤を取り扱った母の子、そうでなかった子と比べ白血病リスク7.99倍

抗がん剤を取り扱った1,291人の妊婦から生まれた子どものうち、4人が白血病を発症していた。その発生率は10万人あたり309.8人で、取り扱っていない妊婦から生まれた子どもの発症率(10万人あたり27.2人)よりも高い傾向だった。出生体重などを考慮に入れた多変量解析では、抗がん剤を取り扱った母親の子どもは、そうでなかった子どもに比較して、小児白血病のリスクが7.99(95%信頼区間は1.98-32.3)倍であったと算出された。

一方、放射線を取り扱った妊婦や麻酔薬を取り扱った妊婦から生まれた子どものうち、それぞれ2人と1人が白血病を発症していた。放射線を取り扱った母親の子どもおよび麻酔薬を取り扱った母親の子どもでは、多変量解析で明らかなリスクの増加は確認されなかった。なお、上記3種類の医療用物質を取り扱った妊婦から出生した子どもで、脳腫瘍を発症したものはいなかった。

父親の情報は母親の約半数の5万1,897人で、そのうち放射線を1,457人(3.2%)、抗がん剤を278人(0.6%)、麻酔薬を328人(0.7%)が、月1回以上取り扱っていたが、医療用物質を取り扱った父親の子どもで白血病や脳腫瘍の発生はなかった。

示されたのはあくまでも「可能性」、さらなる詳細な調査が必要

この研究は、妊婦の医療用物質の取り扱いと3歳までの子どもの白血病の発症に関連がある可能性を示唆した最初の報告になる。ただし、この研究では、質問票から得られた情報を使用したため取り扱いの様式・時間・量の詳細がわからないこと、白血病を発症した児の症例数が少ないこと、父親の情報は母親の約半数であることなどさまざまな制約がある。

今後、子どもの年齢が上がってくるにつれて、コホート研究の進展とともにそれぞれの医療用物質の関与がさらに明らかになることも考えられる。また、年齢によって白血病や脳腫瘍の特定の型の発症頻度が異なることが知られており、同研究を継続することで、医療用物質の取り扱いと特に関係のあるがんの型の詳細が明らかになる可能性がある。

しかし、今回の結果はあくまでも可能性を示したものであり、結果が本当かどうかを見極めるためには、他の大規模コホート研究でも確認を行う必要があり。なお、今回の研究は、ばく露とアウトカムの関係性をみる、いわゆる観察研究と呼ばれるものであり、必ずしも因果関係を示すものではない。しかし、この研究をきっかけとして、小児がんの原因についての研究が進むことを期待する、と研究グループは述べている。

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