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NASH悪化のメカニズム解明、超分子ポリロタキサンによる治療法を開発-名大ほか

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2023年09月22日 AM09:45

NASHの肝細胞死を惹起するコレステロール蓄積、病態悪化につながる機構は?

名古屋大学は9月20日、)において、マクロファージへのコレステロール蓄積が肝線維化を促進するという新たな病態メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大環境医学研究所/医学系研究科の菅波孝祥教授、伊藤美智子特任准教授、東京医科歯科大学生体材料工学研究所の田村篤志准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Experimental Medicine」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

世界的な肥満の増加に伴って、肝臓における合併症の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が注目を集めている。わが国においても、健康診断受診例の約3割に脂肪肝を認め、そのうち約10〜30%が炎症と線維化を特徴とするNASHに進展する。近年、ウイルス性肝炎に対する有効な治療法が開発されたため、いまだ治療薬のないNASHが近い将来、肝細胞がんの原疾患の第1位となることが確実視されている。予後良好の単純性脂肪肝では主に中性脂肪が蓄積するが、NASHではコレステロールのような細胞障害性の脂質が増加することで肝細胞死を惹起し、NASH病態を悪化させると考えられている。一方、肝細胞のコレステロール合成を強力に抑制するスタチン製剤は、高脂血症治療薬として広く使用されているが、NASHに対する治療効果は明確ではない。このように、肝臓におけるコレステロール蓄積がどのようにNASH病態を悪化させるのかは、十分に解明されていなかった。

NASHの病理組織学的特徴として、肝細胞死の増加が指摘されている。研究グループは既に、独自のNASHマウスモデルを駆使して、細胞死に陥った肝細胞の周囲にマクロファージが集積するユニークな組織像を同定し、ここを起点として炎症や線維化が進行することでNASHを発症することを明らかにした。このマクロファージはCD11cというタンパク質を細胞膜上に発現し、NASHに特徴的な活性化状態を呈するが、マクロファージが形質転換するメカニズムは不明だった。

NASHマウス肝臓死細胞の内部にコレステロール結晶形成、周囲にCD11c+マクロファージ集積

NASHマウスモデルの肝臓を電子顕微鏡や偏光顕微鏡で観察したところ、細胞死に陥った肝細胞の内部にコレステロール結晶が形成されることを見出した。また、死細胞(肝細胞)の周囲に集積するCD11c陽性マクロファージでは、コレステロール含量の増加とともにリソソーム障害を呈した。ヒトのNASH肝においても、同様の所見が認められた。

βCDをリソソームだけに送達する「」、マウスの肝線維化を改善

環状オリゴ糖のβシクロデキストリン(βCD)は、遺伝性にコレステロールが蓄積する難病・ニーマンピック病C型に対する臨床試験が進行している。βCDはコレステロールを包接して細胞外に排泄する一方、細胞内に取り込まれにくく、細胞毒性も強い点も指摘されている。そこで研究グループは、多数のβCDを組み合わせて超分子ポリロタキサンを合成し、βCDをリソソーム選択的に送達することを可能とした。リソソームの酸性環境において酸分解性ストッパーが外れ、超分子ポリロタキサンからβCDが遊離し、コレステロールを補足する。研究グループは、さまざまなタイプの超分子ポリロタキサンから、NASH治療に最も適したものを同定した。

NASHマウスモデルに対して超分子ポリロタキサンを6週間持続的に皮下投与したところ、肥満や脂肪肝の程度に変化はなかったが、CD11c陽性マクロファージのコレステロール含量が選択的に低下し、線維化促進形質が抑制されるとともに、肝線維化が改善した。

リソソームへのコレステロール過剰蓄積が下流の転写因子を活性化、線維化促進因子が発現

培養マクロファージを用いて、マクロファージ内コレステロール蓄積が線維化促進に働く分子メカニズムを検討したところ、コレステロールがリソソームに過剰蓄積することでリソソーム障害が惹起され、TFE転写因子ファミリーや、さらに下流の転写因子Egr1を介して線維化促進因子の発現が誘導されることを見出した。

超分子ポリロタキサン、NASH治療への応用へ期待

今回の研究により、1)NASHでは死細胞を処理するマクロファージにコレステロールが蓄積すること、2)リソソーム障害が線維化促進因子の発現を誘導すること、3)超分子ポリロタキサンでマクロファージ内コレステロールを減少させると肝線維化が改善することが明らかになった。近年の解析技術の発展に伴って、NASHの病態形成に深く関与するマクロファージの特徴が明らかになりつつあるが、この研究ではコレステロール代謝変容による線維化促進形質の獲得機構を明らかにした。「ヒトにおいても活動性の高いNASHでは高率にコレステロール結晶が認められるため、超分子ポリロタキサンのNASH治療への応用が期待される」と、研究グループは述べている。

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