医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 抗うつ薬の治療効果と関連する、治療前血中miRNAを複数同定-関西医科大

抗うつ薬の治療効果と関連する、治療前血中miRNAを複数同定-関西医科大

読了時間:約 3分
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年09月19日 AM11:29

miRNA発現量の増減は、うつ病の病態や抗うつ薬の標的として関与

関西医科大学は9月15日、世界で初めて網羅的に評価した治療前のうつ病患者の血中microRNA(miRNA)発現量とミトコンドリアDNA(mtDNA)コピー数の関連を厳格な統計手段で解析し、うつ病患者の5種類のmiRNAとmtDNAに関連があること、それらを用いた治療反応予測の可能性を発見したと発表した。この研究は、同大精神神経科学講座の加藤正樹准教授、緒方治彦助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Affective Disorders」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

うつ病は、長期にわたる気分の変動や喜びの喪失、活動への興味の喪失を引き起こし、家族や友人、地域社会との関係を含め、生活のあらゆる側面に影響を及ぼす可能性があり、迅速かつ的確な病態究明が望まれている。

miRNAは、ヒトの細胞において遺伝子発現を制御する小さなRNAの一種であり、神経保護やストレス関連反応など、中枢神経系に関連するさまざまな生物学的プロセスに関与している。miRNA発現量の増減は、うつ病の病態や治療薬の抗うつ薬の標的として関与しているとされている。また、細胞質にあるミトコンドリアというエネルギー産生や細胞の老化などの役目をもつ小器官の中にも小さなDNA、mtDNAが存在する。ストレスに反応して、ミトコンドリア内のmiRNA(mitochondrial :mitomiR)がミトコンドリア損傷とmtDNA断片化を引き起こし、ともに細胞質の外に拡散することが推測されているが、この過程はいまだ明白に特定されていない。

未治療のうつ病患者の血漿中のmtDNAコピー数とmiRNA発現量の関連について検証

研究グループは、うつ病というストレスによりmiRNAがミトコンドリア損傷やmtDNAの断片化を引き起こすとの仮説を立て、未治療のうつ病患者の血漿中のmtDNAコピー数とmiRNA発現量の関連について検証した。また、同時にミトコンドリア損傷と関連するmiRNAのパスウェイの検出やそれらとうつ病の治療反応についても検証した。

mitomiRは呼吸鎖複合体を破壊し、活性酸素(reactive oxygen species:ROS)産生を増加させ、ミトコンドリアを損傷し、mtDNAの断片化を引き起すと推測されている。断片化されたmtDNAやmitomiRは、細胞質内での拡散、さらには細胞外空間での拡散を引き起こし、上衣細胞(脳室系の壁を構成する上皮細胞の一種)を通過して脳脊髄液に到達し、次いで血液脳関門を通過して血液に到達し、そこで神経炎症のバイオマーカーとして検出可能となるメカニズムが予想された。

うつ病患者65例を解析、5種類のmiRNA発現量がmtDNAコピー数と有意な正の相関

うつ病患者65例を対象に、抗うつ薬による治療前にマイクロアレイにて血漿miRNA発現量と、定量的リアルタイムPCRでmtDNAの2領域(呼吸酵素複合体ⅠのサブユニットであるND1,4)のコピー数を測定しmtDNAの発現量を確認した。その結果、5種類のmiRNA(miR-6068、miR-939-5p、miR-187-5p、miR-7110-5p、miR-4707-3p)の発現量が、mtDNAコピー数と有意な正の相関(p=2.26e-6–8.67e-5)を示した。

各miRNA発現量とSSRIなど抗うつ薬の効果の関連も判明

これらのmiRNAの発現量と抗うつ薬の治療効果との関連を解析したところ、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:SSRI)においては、治療前のmiR-4707-3pの発現量が低い群が4週目に治療寛解に至る割合が高く、ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ剤(Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant:Mirtazapine)では治療前のmiR-6068の発現量が高い群が4週目に治療寛解に至る割合が高いことが示された。

また、これらの5つのmiRNAは甲状腺ホルモン合成、Hippoシグナル伝達、バソプレシン調節による水分再吸収、リジン分解などのパスウェイに関連する遺伝子発現に関与することが判明した。

新たな病態機序の解明、新規治療薬開発などに期待

研究の成果は、うつ病のmiRNAとmtDNAを介した新たな病態機序の解明とそれらを用いて薬剤選択を行うなどの臨床応用につながる可能性がある。「また、miRNAが標的とする候補物質を特定することで既存薬を転用して新たな疾患の治療薬として開発するドラッグリポジショニングやmiRNAの機能を調整する新規治療薬の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • ホルモン抵抗性がん、P53の機能回復を促す新規治療戦略を発見-都長寿研ほか
  • 隠れ心房細動、家庭での継続的な心電図記録が検出につながる可能性-京都府医大
  • がん血行性転移の新規標的として「血管TGF-βシグナル」を発見-東京薬科大ほか
  • メラノーマの免疫療法、日本人に多い手足型に対する治療標的発見-札幌医科大ほか
  • 関節リウマチ患者に対する「生物学的製剤」の種類・有効性を検証-広島大ほか