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インスリン抵抗性に関わる腸内細菌・糞便代謝物を特定、統合オミクス解析で-理研ほか

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2023年09月01日 AM11:03

メタゲノム解析ではなく統合オミクス解析で腸内細菌の直接的役割をより的確に解析

(理研)は8月31日、2型糖尿病の基盤であるインスリンの働きが悪くなる「」に関連する特徴的な腸内細菌および糞便代謝物を特定したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの大野博司チームリーダー(神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)腸内細菌叢プロジェクト プロジェクトリーダー(研究当時))、窪田哲也上級研究員(研究当時、医薬基盤・健康・栄養研究所()国立健康・栄養研究所臨床栄養研究部長(研究当時)、KISTEC腸内細菌叢プロジェクト サブリーダー(研究当時))、竹内直志特別研究員(研究当時)、理研統合生命医科学研究センター(研究当時)の小安重夫センター長(研究当時、現・理研生命医科学研究センター 免疫細胞システム研究チーム チームリーダー)、東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の門脇孝教授(研究当時)、同病態栄養治療センター 病態栄養治療部の窪田直人准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

2型糖尿病は日本のみならず世界中で患者が増加しており、また、心臓病、腎臓病、網膜症による失明など重篤な合併症の原因になることから、その機序解明が望まれている。近年さまざまな研究により、2型糖尿病やその背景にあるインスリン抵抗性に、腸内細菌が関与していることが示唆されている。

しかし、これら多くの研究は、ある種の腸内細菌とインスリン抵抗性との関連を示唆するのみで、機序を示すことは困難だった。その一因として、従来のヒト腸内細菌の研究は細菌の種類とその遺伝子を調べるメタゲノム解析が一般的であり、疾患を直接的に制御する腸内細菌代謝物のような低分子化合物に関する知見が不足していたことが挙げられる。

そこで研究グループは今回、ヒト検体の統合オミクス解析で腸内細菌に関する情報を網羅的に調べることで、腸内細菌がインスリン抵抗性の病態にどのように関与しているかを多角的に調べることにした。特に膨大な低分子化合物を探索できるメタボローム解析の併用により、腸内細菌の遺伝子だけでなく、ヒトの生理機能に直接影響を与える腸内細菌からのメッセンジャーとしての役割を果たす代謝物を探索することで、腸内細菌の直接的な役割を、より的確に調べることにした。

2,849種類の糞便代謝物同定、代謝異常マーカーと「単糖類」との関連を発見

まず、東京大学医学部附属病院予防医学センターを受診した日本人を対象に、肥満の人(BMI:25kg/m2以上)、前糖尿病の指標を満たす人(空腹時血糖:110mg/dL以上、もしくはHbA1c:6.0%以上)、それ以外の人を、それぞれ100人ずつ程度を目標に被験者として募集した。以前の研究から糖尿病薬が腸内細菌に影響を与えることが示されており、未病(前糖尿病)の段階における腸内細菌の変化を調べることが同研究の目的であることから、糖尿病薬を使用中の人は対象外とした。募集の結果、計306人の被験者が集まった。

被験者の身長、体重、生化学検査(コレステロール、血糖、HbA1cなど)の一般的な検診項目とともに、糞便、血液を追加採取した。これらの検体を使用し、糞便細菌叢/糞便メタゲノム/糞便メタボローム/血液メタボローム/血液サイトカイン/末梢血単核細胞CAGE解析を組み合わせた「」を実施した。

糞便メタボローム解析の結果、過去のヒト腸内細菌研究で報告されていた数を大幅に上回る2,849種類の代謝物の同定に成功。これらの糞便代謝物と各種臨床マーカーとの関連性を解析したところ、インスリン抵抗性のマーカーのHOMA-IRおよびメタボリック症候群やBMIなど代謝異常のマーカーが、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、キシロースなどの「単糖類」と関連していることを発見した。また、英国で実施されたTwinsUKコホートデータを再解析し、同様にHOMA-IRやBMIが単糖類と関連していることを確認した。

インスリン抵抗性に関連する腸管内の単糖類の増減に、特定の腸内細菌種が関与の可能性

次に、これら単糖類の増減に腸内細菌が関与するか調べた。以前よりメタゲノム解析では、前糖尿病や肥満の人の腸内細菌は糖質代謝が活発になっていることが示されていた。そこで「どの腸内細菌種が単糖類に関連するか」「どのような腸内細菌の遺伝子機能が単糖類に関連するか」の2点を中心に解析した。

その結果、被験者306人の腸内細菌は4つの大きなパターンに分けられること、そのうちBlautia属、Dorea属の細菌を多く含む腸内細菌叢パターンはインスリン抵抗性や単糖類と正に関連する一方、Bacteroides属、Alistipes属を多く含む腸内細菌叢パターンは負に関連することを見出した。さらに、Bacteroides属、Alistipes属を多く含む腸内細菌叢パターンには、デンプンやショ糖など複雑な糖質をヒトが吸収できる単糖類に変換する遺伝子機能は少なく、単糖類そのものを利用する遺伝子機能が多く検出されたという。

以上の結果から、インスリン抵抗性に関連する腸管内の単糖類の増減には、特定の腸内細菌種と糖質分解・利用に関わる腸内細菌の遺伝子機能が関与している可能性が示された。

糞便中の単糖類に、腸内細菌と免疫細胞の炎症関連遺伝子、炎症性サイトカインを結ぶ働き

単糖類はそれ自体が過剰な栄養素になる一方、ヒト体内の免疫細胞から炎症性サイトカインの産生を促すことで、インスリン抵抗性や肥満を増悪させる可能性が示されている。研究グループは、末梢血単核細胞(免疫細胞)のCAGE解析と血中サイトカインの解析を組み合わせることで、インスリン抵抗性に関連する炎症関連の遺伝子プロモーター活性と炎症性・抗炎症性サイトカインを同定した。

さらに相関係数に基づく因子間の相互作用を明らかにするネットワーク解析を行ったところ、糞便中の単糖類は、腸内細菌と免疫細胞の炎症関連遺伝子、炎症性サイトカインを結ぶネットワークハブであることが可視化されたとしている。

単糖類と負の相関をする代表的な細菌株投与で肥満マウスのインスリン抵抗性改善

最後に、統合オミクス解析で同定した腸内細菌種のうち、インスリン感受性(インスリンの働きが良い状態)に関連する細菌種が、実際に病態を改善する効果を持つか、実験的な検証を試みた。前述の通り、Alistipes属は単糖類と負の相関をする細菌種だ。その代表株「Alistipes indistinctus」を肥満モデルマウスに投与したところ、インスリン抵抗性の指標であるインスリンの血糖低下作用が改善。さらに、このマウスでは腸管および血液中の単糖類の量が減少した。

以上の結果から、統合オミクス解析で見出されたAlistipes indistinctusは腸管内の単糖類の量を減少させることで、インスリン抵抗性を改善させる可能性が示された。

新しいプロバイオティクスやインスリン抵抗性治療薬の創出に期待

今回の研究では、2型糖尿病の背景病態であるインスリン抵抗性に関連する腸内細菌を統合オミクス解析という従来にはない多角的な視点から調べることで、腸管内の単糖類がインスリン抵抗性に強く関連すること、また、特定の腸内細菌種とその遺伝子機能がこれら単糖類と関連することが見出された。さらに、統合オミクス解析を通じて、同定したAlistipes属の代表株であるAlistipes indistinctusが、実際にマウスのインスリン抵抗性を改善させることが明らかにされた。

「本研究は、これまで明らかにされていなかった腸内細菌とインスリン抵抗性をつなぐ機序を解明したとともに、腸内細菌および腸管内単糖類が治療標的になり得ることを示した。今後、本成果をもとに、新しいプロバイオティクスやインスリン抵抗性の治療薬が創出されるものと期待される」と、研究グループは述べている。

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