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卵巣がんに対するベバシズマブ、初回治療より再発時に有用性が高い-近大ほか

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2023年08月04日 AM11:12

標準治療にベバシズマブを用いるべきか、意見さまざま

近畿大学は8月3日、卵巣がんに対する血管新生阻害剤のベバシズマブ(製品名:)の効果が投与期間等によってどう変化するかを臨床試験データから解析し、ベバシズマブの投与終了後に悪化リスクが高まる「リバウンド効果」が見られることを確認し、それを元にベバシズマブの最適な投与方法を提案したと発表した。この研究は、同大医学部産科婦人科学教室の松村謙臣主任教授と、京都大学大学院医学研究科婦人科学産科学教室の高松士朗特定助教を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ベバシズマブは、血管新生を阻害し、がん細胞の成長に必要な栄養の供給を妨げて死滅させる分子標的薬で、卵巣がんの治療に最も多く使用されている。平成23年(2011年)の先行研究において、化学療法との併用後に維持療法としても用いることで、無増悪生存期間(PFS)が延長し、増悪リスクも減少したことから、日本を含む世界各国で薬事承認された。しかし、ベバシズマブは得られる効果に対して薬剤費が高く、高血圧、タンパク尿、腸穿孔などの副作用も認められ、さらに全生存期間(OS)は延長させる効果がないと報告されたことから、卵巣がんの標準治療としてベバシズマブを用いるべきかについては、さまざまな意見がある。

効果の時間依存的変化に着目して、P3試験データを再解析

通常、臨床試験における2群間の生存曲線の比較は、2群間の増悪リスクや死亡リスクの比が経時的に常に一定である(比例ハザード性が成立している)という仮定のもとに、そのリスク比(ハザード比)が数値化され、その結果、「死亡リスクが30%減少した」などと評価される。抗がん剤などの殺細胞性化学療法剤の効果を調べる臨床試験では、多くの場合この解析方法が有用である。

しかし、分子標的薬の効果を調べる臨床試験の場合は、増悪や死亡を抑制する効果が経時的に変化しており、比例ハザード性が成立しないケースがある。そのような場合に比例ハザードモデルによる解析を行うと、臨床試験の結果に関する解釈に混乱が生じてしまう。一方、生存曲線の下の面積を比較する、制限付き平均生存期間(RMST)解析は、比例ハザード性が成立していない場合の解析手法として有用と考えられているが、まだ広く用いられていない。

研究グループは、ベバシズマブを用いた7件の無作為化第3相試験(ICON7、GOG-0218、BOOST、GOG-0213、OCEANS、AURERIA、MITO16B)の公開データを用いて、ベバシズマブの効果の時間依存的変化に着目して再解析することで、ベバシズマブの最適な使用法を探索した。

初回治療にベバシズマブを用いたICON7試験で、投与中止後にリバウンド効果

ICON7試験は、卵巣がんの初回治療時においてベバシズマブを化学療法と併用で5~6サイクル、その後、維持療法として3週間ごとに12サイクル(合計12か月間)投与した際の有用性を検証した臨床試験であり、合計1,528症例のデータが登録されている。研究グループは、そのうち745症例において、症例ごとの生存期間のデータ、および腫瘍の遺伝子発現プロファイルを入手し、このデータをICON7-Aコホートと名付けた。

解析した結果、ベバシズマブ投与群と非投与群の無増悪生存期間の生存曲線を比較することで、比例ハザード性が成立していないことを示した。そこで、RMST解析を行い、投与を開始した最初の12か月間は投与群の方が増悪リスクは低いものの、ベバシズマブ投与を中止する12か月以降は投与群の方が非投与群に比して増悪リスクが高くなるリバウンド効果が認められることを見出した。このリバウンド効果は、進行卵巣がんの大多数を占める組織型の漿液性がんではDNA相同組み換え修復異常の有無によらず認められたが、非漿液性がんでは認められなかった。

投与終了後のリバウンド効果を他試験でも確認

また研究グループは、生存曲線を画像的に解析する手法を開発した。この手法を用いると、症例ごとの生存期間のデータを入手できない臨床試験であっても、論文で公開されている情報から経時的な増悪リスクの変化を調べることができる。

GOG-0218試験は、ICON7試験と同様に、卵巣がんの初回治療において、ベバシズマブを化学療法と併用で5サイクル投与した後、維持療法で16サイクル(合計15か月)投与した際の有用性を検証した臨床試験である。研究グループは、生存曲線の解析によって、ICON7およびGOG-0218のコホート全体に加え、手術時に残った腫瘍、DNA相同組み換え修復経路の遺伝子変異、化学療法感受性の有無で層別化したサブグループについて解析した。

その結果、ベバシズマブ投与終了後の時期には、投与群では増悪リスクが高くなるリバウンド効果が一貫して観察されることを示された。そして、ベバシズマブの投与期間を30か月まで延長させた場合の効果を調べたBOOST試験でも、30か月を超えてから投与群の増悪リスクが増加するリバウンド効果があることを示した。

再発卵巣がん対象にがんが増悪するまで投与した試験ではリバウンド効果見られず

一方、これとは対照的に、再発した卵巣がんを対象として、ベバシズマブを中止せずにがんが増悪するまで投与した際の有用性を検証した臨床試験(GOG-0213、OCEANS、AURERIAおよびMITO16B)では、投与群のリバウンド効果は観察されなかった。

化学療法後のベバシズマブ+PARP阻害剤については今後検討が必要

これまでの臨床試験によって、卵巣がん初回治療時におけるベバシズマブは15か月まで投与するのが標準的な方法となっている。今回、研究グループは、卵巣がん初回治療時において、ベバシズマブ投与開始後約1年間はがんの増悪を抑制するが、その後は投与中止によりリバウンド効果が認められることを示した。今回の結果は、卵巣がんの初回治療におけるベバシズマブの効果は限定的で、ベバシズマブを継続的に投与する再発時の方がベバシズマブの有用性が高いことを示している。

「最近は卵巣がんの化学療法後に、再発を防ぐ目的でPARP阻害剤の維持療法が広く行われるようになってきた。ベバシズマブをPARP阻害剤と併用した場合の効果については、今後のさらなる検討が必要だ」と、研究グループは述べている。

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