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卵巣がんHGSCに強く関連の膜タンパク質同定、バイオマーカーとして期待-名大ほか

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2023年07月14日 AM09:00

卵巣がんは早期発見が重要だが、スクリーニング方法が不十分

名古屋大学は7月10日、卵巣がんエクソソームにおける特異的な膜タンパク質を網羅的プロテオミクスにより新しく同定し、エクソソーム分離方法としてポリケトン鎖修飾ナノワイヤを開発したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院産科婦人科(同大学高等研究院兼務)の横井暁病院講師、同大大学院医学系研究科産婦人科学の鵜飼真由医師(現:トヨタ記念病院産婦人科医長)、梶山広明教授、東京工業大学生命理工学院の安井隆雄教授、北海道大学大学院工学研究院(同大学創成研究機構化学反応創成研究拠点WPI-ICReDD)の猪熊泰英教授、国立がん研究センター研究所病態情報学ユニットの山本雄介ユニット長、慶應義塾大学薬学部薬物治療学講座の松崎潤太郎准教授、東京医科大学医学総合研究所の落谷孝広特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」電子版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

卵巣がんは、日本において年間約1万3,000人が罹患し、その約半数が命を落とすとされる予後の悪いがんだ。早期スクリーニングが困難なため、ほとんどの症例が進行期で診断され、5年生存率は45%以下とされている。そのため、早期発見が重要になるが、現状、スクリーニング方法は十分ではない。卵巣がんにはさまざまな種類があり、今回の研究では最も頻度の高い高悪性度漿液性がん(HGSC)を対象とした。

HGSCに強く関連のエクソソーム膜タンパク質FRα、Claudin-3、TACSTD2を同定

これまでHGSCに特異的で感度の高いバイオマーカーや、さらに、細胞外小胞(EV)に関連した膜タンパク質についてはほとんどわかっていなかった。エクソソームをはじめとするEVは、古くからヒトの体液中に存在することが知られており、近年、細胞間コミュニケーションに不可欠なツールとして医学生物学分野においてその価値がますます高まっていた。EVに含まれる生理活性物質の中でも、膜タンパク質は、応用性に富んだ重要なターゲット分子だ。また近年、体液中のEVの不均一性の理解も重要視されており、詳細かつ精巧なEVプロテオミクスの評価は、この分野の大きな課題だった。臨床バイオマーカーとして実用化されるためには、EV上の疾患関連分子の同定、EVの不均一性の理解の2点に加えて、EV捕捉法の簡便化の実現という点も重要な課題として挙げられる。その点において、EV回収方法の技術革新へ向けたテクノロジーの応用が期待されている。

今回、研究グループは卵巣がん細胞や非がん細胞、卵巣がん患者の血液や腹水から、200nm以下の小さなEV(small EV)であるエクソソームと、それ以上の大きなEV(medium/large EV:m/lEV)を同時に抽出し、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)を用いて、網羅的にタンパク質を解析。その結果、エクソソームとm/lEVで明らかに異なる分子を搭載していることが明らかになった。検証の結果、エクソソームはm/lEVよりもバイオマーカーの標的として適していることが判明。エクソソームにおいて、HGSCに強く関連する膜タンパク質である、FRα、Claudin-3、TACSTD2が同定された。

エクソソームを簡便に分離できる「pNW」開発、同定した3分子がバイオマーカーとして有用と確認

エクソソームの捕捉について、ポリケトン鎖修飾ナノワイヤ(polyketone nanowire:pNW)を開発し、pNWが、血清や腹水からエクソソームを簡単な手順で分離できることを明らかにした。同研究グループのpNWを用いた卵巣がん患者エクソソーム解析の結果では、同定した3つのタンパク質がそれぞれ、HGSCを対象としたバイオマーカーとして有用であることが示されたという。

今回の研究では、前述のバイオマーカーとしてのEV実用化に対する課題であるEV上の疾患関連分子の同定、EVの不均一性の理解、EV捕捉法の簡便化のそれぞれにつき一定の回答を提示することができたとしている。同研究成果は、エクソソームをはじめとするEVのさらなる理解、卵巣がん疾患成立メカニズムの解明、卵巣がんEVの実臨床応用など、分野横断的に広く貢献し得る成果だという。今後さらなる検討・検証を通した、卵巣がんエクソソームによるバイオマーカーの実現が期待される、と研究グループは述べている。

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