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マラリア原虫が概日リズムと同調し症状を起こす仕組みにメラトニン関与-東工大ほか

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2023年07月06日 AM10:35

マラリア原虫が感染後、宿主ヒトの概日リズムと同調する仕組みは不明だった

東京工業大学は7月4日、ヒト体内で概日リズム制御に関わるホルモンである「」が、(Plasmodium falciparum)の増殖に必須で、固有のゲノムを持つ細胞内小器官「」における遺伝子発現を活性化することを発見したと発表した。この研究は、同大科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の小林勇気助教(研究当時)、今村壮輔准教授(研究当時、現 日本電信電話株式会社(NTT)宇宙環境エネルギー研究所 特別研究員)、田中寛教授(責任著者)、東京都医学総合研究所 細胞膜研究グループの小松谷啓介研究員、東京大学大学院 医学系研究科の野崎智義教授、渡邊洋一准教授、マレーシア・サバ大学の佐藤恵春准教授、イギリス・ジョンイネス研究所のAntony N. Dodd教授、長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科の北潔教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of National Academy of Sciences of United States of America」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

マラリアは蚊により媒介されるマラリア原虫により引き起こされる重篤な感染症であり、熱帯地域を中心に年に2億人以上が感染し、今でも数十万人の命が毎年マラリアにより失われている。そのため、マラリアの感染防止や治療は世界的に喫緊の課題となっている。

マラリアに感染すると、患者は周期的な悪寒や発熱、頭痛や疲労感に苦しむことが知られている。患者に訪れるこの周期的な苦しみは、体内に入ったマラリア原虫の増殖周期が、ヒトの持つ概日リズムと同調し、体内で周期的に一斉に増殖することによる。この同調のメカニズムには、概日リズムを全身の細胞に伝える役割を持つ血中ホルモンであるメラトニンが関わるのではないかと考えられてきた。実際、ヒトとマラリア原虫のそれぞれが独自に持つ概日リズムを乱すと、感染したマラリア原虫の増殖や伝播が阻害されることがわかっている。そのため、このようなリズムの発生やその同調に関する分子機構を理解することは、その分子を標的としたマラリア治療の開発につながる可能性がある。

メラトニン分泌によりマラリア原虫が活性化することで概日リズムと同調

アピコプラストはマラリア原虫や近縁の寄生性原虫細胞内に見つかる細胞内小器官であり、マラリア原虫の増殖に必須な機能を有している。アピコプラストのゲノムにコードされた遺伝子の転写にはバクテリア型の「RNAポリメラーゼ」が関わっている。

研究グループは今回、このRNAポリメラーゼの転写開始に必須なタンパク質である「シグマ因子(ApSigma)」が、熱帯熱マラリア原虫の核ゲノムにコードされていることを発見した。また、メラトニンの存在がこの遺伝子の発現を活性化し、それに伴いアピコブラストゲノムにコードされる遺伝子の発現も活性化されることを明らかにした。つまり、周期的に体内で生じるメラトニン分泌がスイッチとなり、そのタイミングでマラリア原虫が活性化し、ヒトの概日リズムとマラリア原虫の活性周期が同調すると推察された。

メラトニンがマラリア原虫増殖に必須のアピコプラストの遺伝子発現を活性化

今回行った実験は以下の通り。熱帯熱マラリア原虫をin-vitro(試験管内)のメラトニンのない環境で培養すると、核ゲノムやアピコプラストゲノムにコードされた遺伝子群は一定のリズムの下に発現する。ここにメラトニンを加えると、ApSigmaをコードする核遺伝子(apSig)の発現が上昇し、それに呼応してアピコプラストゲノムにコードされる遺伝子の発現上昇が観察された。

この結果は、ヒトの概日リズムが血中のホルモン(メラトニン)を介してアピコプラストの遺伝子発現に働きかけ、宿主ヒトとマラリア原虫の概日リズムの同調に関わることを示唆している。メラトニンの作用機作としては、マラリア原虫の表層にあるメラトニンレセプターで感知されたのち、細胞内セカンドメッセンジャーであるサイクリックAMPを介したシグナル伝達系によりapSig遺伝子発現を活性化していることが示された。

マラリア発症の分子機構を標的とした新規抗マラリア薬の開発に期待

今回の研究により、マラリア原虫が感染後、ヒトの概日リズムと同期して周期的なマラリアの症状を起こす仕組みの理解が深まった。

「マラリア原虫のアピコプラストは固有のゲノムを持ち、イソプレノイドの合成など原虫の増殖に必須な機能を持っていることから、抗マラリア薬開発の標的として注目されてきた。マラリアの症状が周期的に起こることからも、宿主ヒトと原虫のリズムの同期は感染症の重篤性に深く関わる可能性が示唆されており、今回明らかとなったメカニズムの阻害は新規抗マラリア薬開発の標的候補となると考えられる」と、研究グループは述べている。

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