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肺炎桿菌、高齢者で感染症を誘発するメカニズムを解明-東海大ほか

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2023年06月12日 AM10:53

、若齢健常者に対しては病原性を発揮しない腸内細菌の1つ

東海大学は6月9日、腸管内の共生菌でありながら高齢者を中心に肺炎や肝膿瘍などを引き起こす肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)に対する、宿主の腸管粘膜における感染防御メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大医学部医学科基礎医学系生体防御学の津川仁講師、慶應義塾大学薬学部の松崎潤太郎准教授らの研究グループによるもの。研究成果は。「PLoS Pathogens」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

老化は免疫システムの弱体化や機能不全を誘発し病原体と戦う能力を低下させる。したがって高齢者はあらゆる病原体による感染症に罹患しやすく、時に肺炎など生命の危機に直結する重篤な感染症を呈する場合もある。そこで、免疫力低下に直結する加齢性変容の根底にある分子メカニズムを理解することは、高齢者をあらゆる感染症から守り抜く技術の開発に向けて極めて重要だ。

肺炎桿菌は、土壌、水、植物など自然界に広く分布し、ヒトの腸管内にも生息する腸管内共生細菌の一つだ。この菌は、若齢健常者に対しては、ほとんど病原性を発揮せず腸内細菌の一つとして共生しているが、免疫力が低下した高齢者を中心に肺炎、肝膿瘍、尿路感染症など重篤な全身感染症を引き起こす。肺炎桿菌感染症のほとんどは腸管内に共生していた菌体に起因するため院内感染にも特段の注意を要する。また、肺炎桿菌による肝膿瘍は腸管内で共生状態にある菌が血中を介して肝臓に伝播することで発症するとも考えられている。しかし、肺炎桿菌が若齢健常者には病原性を示さず高齢者を主たる感染対象とする理由、つまり、肺炎桿菌の病原性発現に直結するヒト免疫力の加齢性変容の本態は不明のままだった。

加齢で減少の腸管粘膜マクロファージ、肺炎桿菌の腸管粘膜内への侵入を抑制

研究グループは、若齢マウスと老齢マウスを用いた実験を行った。それぞれのマウスに肺炎桿菌をそれぞれ経口感染させたところ、若齢マウスでは経口感染した肺炎桿菌の腸管粘膜内への侵入はほとんど認めなかった。一方、老齢マウスでは肺炎桿菌が腸管粘膜内へ侵入し、その後肝臓へ伝播することが明らかになった。この結果から、老齢マウスでは腸管粘膜免疫の加齢性変容により感染防御力が低下し、肺炎桿菌が容易に生体内へ侵入できる状態にあると推察された。

そこで、腸管粘膜内に常在するマクロファージに注目し、その存在量を若齢マウスと老齢マウスで比較した。すると、腸管粘膜マクロファージの存在量は加齢に伴い顕著に減少することが明らかとなった。さらに、マクロファージが肺炎桿菌の腸管粘膜内への侵入阻止に寄与しているかを明らかにするために、Cell Culture Insertを用いて試験管内(in vitro)肺炎桿菌感染モデルを構築した。マクロファージ存在下では肺炎桿菌の腸管上皮細胞内への侵入はほとんど認めなかったが、マクロファージ非存在下では肺炎桿菌は腸管上皮細胞内へ侵入し上皮細胞の基底膜側にまで到達した。この結果から、肺炎桿菌感染を認識したマクロファージが腸管上皮細胞に対して菌体の侵入を阻止するシグナルを放出していると考えられた。

肺炎桿菌を認識したマクロファージ、/Axlシグナルを介しタイトジャンクションバリアを強化

肺炎桿菌感染下でマクロファージが放出するサイトカインについて、サイトカインアレイ解析により網羅的に探索した。その結果、肺炎桿菌感染下でマクロファージはgrowth arrest-specific 6(Gas6)を分泌することが示され、分泌されたGas6は腸管上皮細胞表層でその受容体であるAxl tyrosine kinase receptor(Axl)と共局在しGas6/Axlシグナルを惹起することがわかった。さらに、腸管上皮細胞でのGas6/Axlシグナルは、上皮細胞間のタイトジャンクションタンパク質(ZO-1およびoccludin)発現を顕著に亢進させることが明らかになった。

抗Gas6抗体やGas6/Axlシグナル阻害剤は、マクロファージ存在下での肺炎桿菌の腸管上皮細胞内への侵入抑制効果をキャンセルさせた。このことからも、腸管粘膜マクロファージは肺炎桿菌を認識することでGas6を分泌し、分泌されたGas6は腸管上皮細胞に作用しGas6/Axlシグナルを惹起することで上皮細胞間のタイトジャンクションバリアを増強させ、肺炎桿菌の上皮細胞内への侵入を抑制していると考えられた。

加齢に伴う肺炎桿菌応答性Gas6分泌低下、補完が予防法になる可能性

若齢マウスに肺炎桿菌を経口感染させると腸管粘膜上皮でGas6とAxlの共局在が確認されたが、老齢マウスでは腸管粘膜でのGas6とAxl発現がほとんど検出されなかった。このことから、加齢に伴う肺炎桿菌応答性のGas6分泌の低下が、肺炎桿菌が容易に腸管粘膜内へ侵入し肝臓へ伝播する要因であると考えられた。そこで、肺炎桿菌を経口感染させる前の老齢マウスへGas6を投与した。その結果、老齢マウスでも腸管粘膜上皮でGas6とAxlの共局在が確認され、経口感染した肺炎桿菌の腸管粘膜内への侵入とそれに続く肝臓への伝播は有意に抑制され、同時に、マウスの生存率も有意に改善した。この結果により、加齢に伴う肺炎桿菌応答性のGas6分泌の低下を補完することで高齢者に対する肺炎桿菌感染症予防が実現することが示された。

研究で注目した肺炎桿菌は、腸管内に共生する細菌である一方、潜在的に病原性を示す細菌であり「Pathobiont」と称される。これまで、人間の体はPathobiontをどのように監視し、その病原性をどのように制御しているのか、明らかにされていなかった。今回、腸管内に潜在するPathobiontの認識と病原性制御に関わる極めて重要な腸管粘膜のバリアメカニズムを分子レベルで解明した。「腸管粘膜の防御応答機構を補完的に応用することで、高齢者の感染症予防法開発につながることを実証しており、これに向けて新たな光を見出した」と、研究グループは述べている。

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