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大腸がん、低酸素環境で発現低下の「sST2」が新規治療標的となる可能性-帝京大ほか

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2023年04月28日 AM11:26

IL-33のおとり受容体sST2は大腸がんの低酸素環境で発現低下、悪性度への影響は?

帝京大学は4月27日、大腸がん腫瘍組織中の低酸素領域で生じる炎症性微小環境の改善が、腫瘍増殖と転移の抑制に有効であることを発見したと発表した。この研究は、同大医学部生化学講座の秋元美穂助教、安達三美主任教授、千葉県がんセンター研究所竹永啓三特任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

近年、大腸がんの罹患率および死亡率は日本を含め世界的に著しく増加しており、この傾向は今後も続くことが予想されている。最近の研究から、大腸がんの発生および進行には炎症性の腫瘍内微小環境が深く関与することがわかってきており、その詳細な解析が進められている。

先行研究により、大腸がん組織中のインターロイキン-33()が炎症性の腫瘍内微小環境(ヘルパーT細胞の分化、腫瘍随伴マクロファージ(TAM)の浸潤、血管内皮細胞の増殖と腫瘍血管形成)を介して腫瘍の悪性化進展を促進すること、IL-33のおとり受容体であるsST2がIL-33機能の阻害を介して抗腫瘍的に働くことを明らかにしている。また、大腸がん細胞におけるsST2発現レベルと転移性は逆相関する傾向がある。マウスあるいはヒトの大腸がん細胞株でのsST2発現低下は腫瘍の増殖・転移を促進することが確認されている。

その他、新たに、腫瘍の悪性化進展との関わりが深い低酸素環境では、大腸がん細胞におけるsST2の発現が顕著に低下することを発見。このことから、大腸がん腫瘍組織中の低酸素領域のがん細胞ではsST2発現が減少し、これに伴いIL-33を介した大腸がんの悪性進展が促進されることが予想された。しかし、これまで低酸素誘導性のsST2の発現低下に関する報告は皆無であり、その分子機序や、低酸素がsST2発現減少を介して腫瘍内微小環境やがんの悪性度におよぼす影響については不明だった。

<IL-33発現亢進・核移行<GATA3と結合<sST2転写抑制

今回の研究では、低酸素下の大腸がん細胞でsST2発現が顕著に低下することを発見し、その分子機構について解析。低酸素下のsST2発現には核内のIL-33タンパク質が関与していることを突き止めた。

IL-33は細胞外で炎症性サイトカインとして機能する一方、核内では遺伝子発現制御に関与すると考えられているが、その詳細は不明だ。今回の研究では、低酸素下の大腸がん細胞では低酸素誘導因子(HIF)の制御によりIL-33遺伝子発現が亢進し、核に移行すること、核に集積したIL-33タンパク質が転写因子GATA3と結合してGATA3によるsST2遺伝子の転写を抑制することを世界で初めて明らかにした。

大腸がん組織中の低酸素領域でもsST2発現低下を確認、悪性進行促進の可能性

低酸素誘導性のsST2発現低下は、大腸がん細胞株のみならず、ヒトおよびマウスの大腸がん組織中の低酸素領域でも観察された。そのため、これが大腸がんの悪性進行を促進する可能性が考えられた。実際、腫瘍組織中では炎症性ヘルパーT細胞、抑制性T細胞やTAMの細胞数の増加および腫瘍血管新生の亢進が観察された。

sST2強制発現で低酸素腫瘍領域でのsST2発現低下緩和/腫瘍増殖・遠隔転移を抑制

そこで、低酸素に応答してsST2の発現が亢進するようにしたマウス大腸がん細胞を作製してマウスに移植。その結果、低酸素腫瘍領域でのsST2発現低下が緩和されると共に、腫瘍の増殖および肺への遠隔転移が効果的に抑制されることが示された。

IL-33阻害、これまで対処不可能だった進行大腸がんへの新たな治療法開発に期待

大腸がんの罹患率および死亡率が世界的に増加する中で、大腸がん治療のための医療は飛躍的に進歩してきている。しかし、現代医療によっても、遠隔転移を伴う進行した大腸がんの治療は非常に困難だ。今回の研究では大腸がん組織内の低酸素領域限定的なsST2発現により腫瘍増殖および遠隔転移を効果的に抑制できることを示した。このことは、大腸がん低酸素領域を標的としたIL-33阻害による治療が実現可能であることを示唆している。

大腸がんに対するIL-33阻害の抗腫瘍効果は炎症性の腫瘍内微小環境の改善を基盤としており、この点で殺細胞効果を中心とする従来の抗がん剤とは大きく異なる。したがって、今回の研究で得られた知見を活かして、将来的に新たなアプローチでの大腸がん治療戦略を確立できる可能性がある。IL-33阻害は転移を伴う大腸がんにも有効であると考えられ、これまで対処不可能であった進行大腸がんに対する新たな治療法の展開につながることが期待される、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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