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統合失調症、シナプス分子NRXN1への自己抗体陽性を複数患者で確認-東京医歯大ほか

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2023年04月14日 AM11:02

シナプス自己抗体のスクリーニング系を開発、統合失調症で探索

東京医科歯科大学は4月13日、統合失調症患者の一部にシナプス分子「neurexin1()」に対するこれまでに報告のない自己抗体が存在することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科 精神行動医科学分野の塩飽裕紀テニュアトラック准教授と髙橋英彦教授の研究グループと、、国立精神・神経医療研究センター、、つくば国際大学との共同研究によるもの。研究成果は、「Brain, Behavior, and Immunity」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

統合失調症は、約100人に1人が発症する比較的頻度の高い精神疾患。現在認可されている治療薬はドパミン病態に対するもので、ドパミン受容体の阻害薬が主体だ。しかし、これらの薬物では十分に治療効果が得られない場合も少なくなく、十分な社会復帰ができなかったり、日常生活に支障を来すこともあるため、さらなる病態解明と治療法の開発が必要だ。

統合失調症は、遺伝学的にも症候学的にも多種多様で、さまざまな病態背景を持った患者がいると考えられている。脳疾患の原因は、遺伝子変異に起因するもの、感染症、腫瘍、血管障害などがあるが、近年、脳炎に関連してシナプスに対する自己抗体が発見されてきた。その過程で、急性に精神症状を主症状として発症する自己免疫性脳炎に関連した病態として、自己免疫性精神病の概念も提唱された。

これらを背景に、塩飽テニュアトラック准教授の研究グループは、精神疾患として分類される慢性の経過をたどる統合失調症の一部にも未知のシナプス自己抗体が存在し、病態を形成しているのではないかという仮説を立てて研究を行ってきた。その結果、2022年に未知のシナプス自己抗体を発見するスクリーニング系を開発し、シナプス分子NCAM1に対する自己抗体を発見している。

統合失調症の一部で「抗NRXN1」を発見、健常者では検出されず

研究グループは、開発したスクリーニング系から、統合失調症の患者387人中8人(約2.1%)に、シナプス分子「NRXN1」に対する自己抗体が存在することを明らかにした。一方、健常者からは抗NRXN1自己抗体は検出されなかったという。

NRXN1の遺伝子変異は統合失調症をはじめ、自閉スペクトラム症や知的障害の原因にもなることが報告されており、シナプスの多彩な細胞接着分子と結合する、シナプス細胞接着の中心的な分子だ。抗NRXN1自己抗体は、NRXN1のこれらの分子間結合を阻害した。

抗NRXN1自己抗体を投与したマウスで、統合失調症様行動を観察

さらに、抗NRXN1自己抗体を統合失調症患者から精製し、マウスの髄液中に投与したところ、神経活動の電気生理学特性が変化したり、シナプスが減少したり、認知機能低下や社交性の障害、プレパルス抑制の低下など、統合失調症に関連した行動異常がみられることが判明した。

以上より、抗NRXN1自己抗体が、分子/神経細胞/行動レベルで統合失調症に関連する病態を形成することが示された。

抗NRXN1自己抗体陽性患者、抗体除去が治療戦略につながる可能性

今回の研究成果により、シナプス病態や行動異常の原因になる抗NRXN1自己抗体が、統合失調症の一部に存在することが明らかにされた。抗NRXN1自己抗体が陽性の患者は統合失調症の約2.1%ではあるものの、研究グループが以前に報告した抗NCAM1自己抗体陽性の患者(約5.4%)とは別の患者で陽性になっているため、発見した抗NRXN1自己抗体または抗NCAM1自己抗体が陽性の患者は約7.5%となり、統合失調症における自己抗体病態が一定の割合を占めていることが明らかになった。

抗NRXN1自己抗体陽性の患者が、現在認可されている薬物療法に治療抵抗性だった場合、抗NRXN1自己抗体を除去する治療戦略が考えられ、さらに、そのような治療を行うか否かを判定するバイオマーカーになることも期待される。

「自己抗体は量が多く存在すれば脳炎を誘発する可能性もあるので、現在は原因不明とされる脳炎患者の原因にもなる可能性があり、統合失調症にとどまらない神経疾患の原因解明につながる発展性も考えられる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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