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ポリフェノール「イソラムネチン」による心房細動予防メカニズムを解明-産総研ほか

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2022年12月23日 AM11:00

NASH抑制作用、抗糖尿病効果が判明しているイソラムネチンに着目

国立産業技術総合研究所(産総研)は12月22日、天然に存在するポリフェノールの一種であるイソラムネチンが不整脈の一種である心房細動の発症を予防する生理活性を持つことを見出したと発表した。この研究は、同研究所食薬資源工学オープンイノベーションラボラトリの青沼和宏特別研究員、富永健一副ラボ長、筑波大学生命環境系の礒田博子教授、医学医療系の許東洙准教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical Science」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

心房細動は一般的な不整脈の一つであり、その患者数は、国内で約100万人と推計されている。有病率は加齢とともに増加するため、高齢化が進む日本において、今後も増加していくと予想されている。特に心不全や脳梗塞の主要なリスクとなっており、これらによる健康寿命の短縮は心房細動患者にとって大きな脅威となっている。日本循環器学会「不整脈薬物治療に関するガイドライン」で推奨される基本治療方針では、患者一人ひとりに合った薬剤(抗不整脈薬やβ遮断薬など)を選択することで、心房細動の再発予防や洞調律維持を目指す。しかし、従来の薬剤による効果には限界があり、患者の半数以上が再発を繰り返すか、または永続性心房細動へと移行している。

イソラムネチンは、北アフリカに育成する塩生植物Nitraria retusaに豊富に含まれるポリフェノールの一種。ケルセチンが持つ五つの水酸基のうちの一つがメチル化された構造を持っており、微量だがタマネギをはじめとする身近な植物にも含まれている。これまで筑波大学では、イソラムネチンに潜在する機能の解明に取り組み、イソラムネチンに抗肥満効果や抗糖尿病効果があることを見出してきた。また、産総研の食薬資源工学オープンイノベーションラボラトリとの共同研究により、イソラムネチンが非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対して肝細胞の抗線維化を含む抑制作用を示すことを見出している。

心房細動は、心房組織の電気的・構造的特性が徐々に変化するリモデリングで発症する。電気的なリモデリングには、心筋組織の伸縮に関係した電解質や活動電位の異常が関与しており、構造的なリモデリングには心房組織の線維化や炎症、肥大が関与している。これらのリモデリングがさらに進行すると、心房細動がより発生しやすくなったり、持続しやすくなったりする。

今回の研究では、イソラムネチンがそれぞれの心房リモデリングに対してどのような影響を及ぼすのかを実験的に調べ、効果があるとすれば、それがどのような仕組みで発現するのか解析した。

イソラムネチン投与で心房細動の発生率と持続時間が有意に減少、モデルマウスで確認

研究には、心房細動誘発モデルとして、アンギオテンシンII負荷モデルマウスを用いた。マウスを無作為に、無処置群(control)、アンギオテンシンII負荷群(AngII)、アンギオテンシンII負荷+イソラムネチン投与群(AngII+ISO)の3群に分けた。AngIIとAngII+ISOにはいずれもアンギオテンシンIIの負荷を2週間行い、AngII+ISOにはアンギオテンシンIIを負荷する1週間前からイソラムネチンの投与を行った。

イソラムネチンの心房細動の発症に対する効果を調べるため、各群のマウスに対し電極カテーテルを心房に挿入し、電気刺激を加えたときの、心房細動の発生の有無を心電図により判定した。その結果、イソラムネチンを投与していないAngIIはcontrolに対し心房細動の発生率と持続時間が有意に増加したのに対し、イソラムネチンを投与したAngII+ISOはAngIIに対し有意に減少した。これらの結果は、イソラムネチンが心房細動の発症を予防していることを示すものだ。

心筋細胞からのカルシウムイオンの異常な漏出を抑制

研究グループは、心房細動の発症要因の一つである電気的リモデリングに対するイソラムネチンの効果を検証するため、心筋組織の収縮に深く関与しているカルシウムイオンの動きを観察した。

正常な心筋細胞では、細胞に活動電位が発生すると、細胞外からカルシウムイオンが流入して細胞内のカルシウム貯蔵部位である筋小胞体を刺激する。この刺激によって筋小胞体からカルシウムイオンが放出され、細胞質内のカルシウムイオン濃度が上昇し、細胞が収縮する。電気的リモデリングは、筋小胞体から自発的にカルシウムイオンが漏出するようになること(カルシウムリーク)で発生する。このカルシウムリークの発生の有無は、心房細胞内のカルシウムイオンの局所的な濃度変化を観測することで確認できる。

各群のマウスの心筋細胞に薬剤を加えてカルシウムイオンを蛍光発光させ、共焦点顕微鏡の視野内の直線領域(約100µm)におけるカルシウムイオンの変動を1.82ミリ秒ごとに10秒間観察した。共焦点顕微鏡で観察すると、カルシウムリークの箇所は閃光のように見えることからカルシウムスパークと呼ばれているが、AngIIはcontrolに比べて有意にカルシウムスパークの発生頻度が増加したが、AngII+ISOはその頻度が明らかに減少した。この結果は、イソラムネチンが心筋細胞内で筋小胞体からのカルシウムイオンの異常な漏出を抑制して電気的リモデリングを予防していることを示す。

心房細動に伴う心房組織の線維化も予防

心房細動のもう一つの発症要因である構造的リモデリングに対するイソラムネチンの効果を検証するため、各群の心房組織を取り出してマッソントリクローム染色によって染色された組織の面積を測定した。この染色法では組織内の線維化された領域が青く染色される。

その結果、AngIIはcontrolに比べて有意に線維化面積が増加したが、AngII+ISOは線維化面積の増加が抑制された。この結果は、イソラムネチンが心房細動に伴う心房組織の構造的リモデリングを予防していることを示している。

イソラムネチンにより電気的・構造的リモデリングが同時に改善される

さらに、今回発見したイソラムネチンの作用メカニズムを考察するため、心房細動の発症に関係するタンパク質を定量した。その結果、アンギオテンシンIIの投与によって、カルシウムイオンの伝達に関係するタンパク質や細胞の分化・増殖、炎症、細胞死に関係するタンパク質の量が増加したが、イソラムネチンの投与によってこれらの増加が抑制されることを見出した。

これら一連のタンパク質の変動を考察することにより、イソラムネチンが心筋組織内のリン酸化酵素であるCaMKⅡの働きを抑制することで、心筋細胞の筋小胞体からのカルシウムイオンの漏出を低減させ、電気的リモデリングを抑制していること、またイソラムネチンが細胞内のシグナル伝達に関係したMAPK経路のタンパク質を制御することで、心筋の線維化や肥大、炎症による構造的リモデリングを抑制していることが明らかになった。

これまで心房の電気的・構造的リモデリングを同時に改善する医薬品は存在していないことから、イソラムネチンの投与は、心房細動の発症を予防するアップストリーム治療法として期待される。「イソラムネチンによる心房細動の発症抑制のより詳細なメカニズムを解明し、また、臨床応用を視野に研究を進め、患者への臨床試験を目指す」と、研究グループは述べている。

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