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がんのウイルス療法が難治性肉腫に対する新規治療法となる可能性-関西医科大ほか

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2022年11月01日 AM11:00

成人の横紋筋肉腫など難治性の肉腫に対する治療開発へ

関西医科大学は10月31日、難治性肉腫に対する遺伝子組換え単純ヘルペスウイルス1型による腫瘍抑制効果を、モデルマウスにおいて証明したと発表した。この研究は、同大外科学講座の八田雅彦病院助教と海堀昌樹診療教授、関本貢嗣教授らが、東京大学医科学研究所附属病院脳腫瘍外科(東京大学医科学研究所附属先端医療研究センター先端がん治療分野)の藤堂具紀教授と共同で行ったもの。研究成果は、「Molecular Therapy – Oncolytics」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

難治性肉腫のうち、発生部位の限られた平滑筋肉腫に対しては、発生部位にかかわらず手術が根治的な治療法となっているが、進行期の平滑筋肉腫は予後不良であり、二次的な化学療法では効果がない。また、横紋筋肉腫に対しては、手術、放射線療法、化学療法を併用した集学的治療が標準治療となっている。現在、横紋筋肉腫の小児患者の約70%は、放射線療法と化学療法を組み合わせた集学的治療により治癒している。しかし、これらの治療法は成人の横紋筋肉腫の治癒率を向上させておらず、横紋筋肉腫の予後は依然として極めて不良だ(全生存率はわずか20~40%)。以上より、再発転移が生じた場合や成人発症例の難治性肉腫の患者に対する新しい治療の研究開発が急務となっている。

」と同じ構造をもつ、がん治療用ウイルスT-01について検討

研究グループは、難治性肉腫に対する新たな革新的治療法の研究開発として、制限増殖型遺伝子組換え単純ヘルペスウイルス1型()を用いた検討を行った。T-01は、藤堂教授と第一三共株式会社が共同開発し、2021年11月に発売されたがん治療用ウイルス製剤「」(一般名:テセルパツレブ)とほぼ同じ構造を持つがん治療用ウイルス。T-01は正常細胞で病原性を示さないように遺伝子改変されている一方、がん細胞ではウイルス感染による細胞障害を直接的効果として抗腫瘍効果を発揮する。また、破壊されたがん抗原がT細胞に認識された後に抗腫瘍免疫を獲得し、免疫反応を介した間接的効果が期待できる。

T-01は、テセルパツレブで改変されているウイルス遺伝子と同じ3つのウイルス遺伝子に人為的な欠失変異があり、テセルパツレブと同じ作用を有する。正常細胞での複製に必須であるγ34.5遺伝子を欠失されており、これにより、病原性が消失されて安全性が確保され、正常細胞では複製ができなくなっている。次にICP6は非分裂細胞でのDNA合成に必須な遺伝子であるが、これが欠失されており、がん細胞でのみ、この機能が補われてウイルス複製が可能となっている。α47遺伝子はHSV(単純ヘルペスウイルス)が免疫から逃れるウイルスの防御機構として機能するが、これを欠失させ、ウイルス感染したがん細胞においてMHC classⅠに抗原提示されるようになることで、免疫細胞が刺激されるようになっている。

研究グループの先行実験で、数種のヒト肉腫培養細胞株の実験室内での検討において、ウイルス濃度依存性に殺細胞効果が認められた。そこで、今回の研究は、前臨床実験として、ヒトの生体内においてT-01の難治性肉腫に対する直接的抗腫瘍効果、および抗腫瘍免疫の効果を検討した上でT-01の有効性を確立し、ヒト難治性軟部肉腫に対しての治療への応用を目指した。

マウス肉腫皮下腫瘍モデルにT-01投与で腫瘍体積の抑制効果

研究グループは、マウス肉腫両側皮下腫瘍モデル(CCRF S-180Ⅱ)において、片側にのみ濃度の異なるT-01を接種した。T-01接種側では低濃度、高濃度ともに腫瘍の体積増大に有意な抑制効果を認め、さらに、T-01非接種側においても有意な抑制効果を認めた。この結果はT-01が濃度依存性に腫瘍増殖を抑制し、さらに遠隔部位(T-01接種の皮下腫瘍の対側に作成したT-01非接種の皮下腫瘍)に対しても濃度依存性に間接的な抗腫瘍効果を有することを示唆している。

T-01投与によるリンパ球増加による腫瘍免疫増強効果

次に、コントロール(PBS)群とT-01投与群の2群で、Enzyme-Linked ImmunoSpot (ELISpot) Assayを用いて脾臓細胞におけるサイトカイン量について調べた。評価項目は細胞性免疫であるヘルパーT細胞であるTH1細胞の誘導サイトカインのINFγとIL-2、TH2細胞の誘導サイトカインであるIL-4、Treg細胞が産生するIL-10の4項目。INFγとIL-4がT-01投与群で有意に上昇しており、IL-2はコントロール群と比較し増加している傾向にあった。IL-10についてはT-01投与群で有意に減少していた。このことからT-01投与によるリンパ球増加による腫瘍免疫増強効果が考えられた。

さらに、摘出した腫瘍細胞で免疫において重要な働きをするCD4陽性細胞とCD8陽性細胞を免疫染色し、染色面積を比較した。コントロール(PBS)群とT-01投与群の2群比較を行った結果、T-01投与群で両方の細胞増加を認めた。T-01非接種側の腫瘍では増加する傾向を認めた。このことからも、T-01投与によるリンパ球増加による腫瘍免疫増強効果が考えられた。

腹膜播種モデルで生存延長効果を確認

最後に全身性の抗腫瘍効果による生存延長効果を確認するため、腹膜播種モデルを作成し実験した。60日間観察を行いコントロール(PBS)群およびT-01投与回数別の4群で比較を行った。コントロール群では全例死亡したのに対し、T-01の8回投与の4週間投与群では100%の生存率を認めた。

T-01と抗がん剤、免疫チェックポイント阻害剤などと併用した新治療の検討

今回の研究成果より、切除不能な横紋筋肉腫、平滑筋肉腫に対して今回使用したT-01と抗がん剤、免疫チェックポイント阻害剤などと併用した新しい革新的な治療戦略が考えられる。「今後は臨床応用として横紋筋肉腫・平滑筋肉腫切除不能例に対して体外・開腹/腹腔鏡アプローチでのT-01の腫瘍内投与を行う臨床試験を視野に入れ、東京大学と連携し難治性肉腫に対する国内外における代表的な治療施設を目指していきたい」と、研究グループは述べている。

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