社会的フレイル予防に関するmHealth介入研究はほとんどない
兵庫県立大学は8月5日、AI健康アプリを家族と一緒に使う「健康サポートバブル」介入が社会的フレイルを予防可能であることを示したと発表した。この研究は、同大地域ケア開発研究所の林知里教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「npj Digital Medicine」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
フレイルとは、加齢に伴う心身の活力の低下のことで、健康と要介護の中間の状態を指す。65歳以上の人口の約12~24%がこのフレイルの状態にあると報告されている。フレイルには、主に、身体的フレイル、認知・精神的フレイル、社会的フレイルの3つの側面があるが、今回の研究では、このうちのひとつである「社会的フレイル」に着目した。社会的フレイルは、フレイルの3つの側面の中で最も未解明な部分で、社会的孤立、孤独、社会的ネットワークの不足、社会参加の低下などの概念が含まれる。
現在、世界中で利用可能なヘルスケアアプリは30万以上あると報告されており、モバイルヘルス(mHealth)が注目を集めている。近年、さまざまな研究が、社会的孤立や孤独を軽減するためのmHealth活用について検証しているが、結果は限定的である。最近発表されたレビュー論文では、ほとんどのmHealthアプリ介入前後で、高齢者の孤独感や健康アウトカムに変化がなかったと報告している。特に、壮年期からの社会的フレイル予防に関するmHealth介入研究はほとんどない。
健康アプリ活用をサポートし合うために形成される共鳴ネットワーク「健康サポートバブル」
COVID-19パンデミックの際、ロックダウン(都市封鎖)による人々の孤独が世界的な問題になった。ソーシャルバブルは、イギリス政府とニュージーランド政府によって広く使われた概念。ロックダウン時に多くの人々が経験した孤独への対応のために導入された政策である。この仕組みを平常時の社会的フレイルの予防に活用できるようにしたものが「健康サポートバブル」介入だ。研究グループが独自に提唱した新たな仕組みである。「健康サポートバブル」は、健康アプリの活用をサポートし合うために形成される密で互いに影響を及ぼし合う共鳴ネットワークで、それを「泡(バブル)」として表現している。
社会的フレイル予防への「健康サポートバブル」介入効果を検証、アプリ使用単独群と家族群で
今回の研究は、ランダム化比較試験により、40歳以上の日本人における社会的フレイル予防に対する「健康サポートバブル」介入の効果を検証することを目的とした。モバイル型栄養管理ソフトウェアアプリとウェブポータルを含む参加者コーチングシステム(カロママプラス:株式会社Wellmira)を用いた。101人の参加者を登録し、アプリを単独で使用する群を対照群、家族と一緒に使用する群を介入群とした。
社会的行動と余暇活動・フレイル得点改善の一方で、社会的孤立は改善せず
6か月の介入の結果、介入群では、社会的フレイルの構成要素である「社会的行動と余暇活動(p=0.004)」および「フレイル得点(p=0.037)」に改善が見られた。一方で、社会的孤立は改善しなかった。この結果は、今回の介入は社会的フレイルの予防につながる行動変容に影響を与えうる一方で、社会的孤立を解消するものではなかったことを示唆している。
家族以外の他者による健康サポートバブル介入、社会的フレイル予防への効果検証へ
今後、家族以外の他者による健康サポートバブル介入が、社会的フレイル予防に同様の効果をもたらすかどうか、また、6か月以上の長期の介入が社会的孤立の解消に効果があるかなどを検証する必要がある。mHealthは利便性を提供し、ヘルスケアへのアクセスを向上させるが、デジタルの効率性と人と人との相互作用のバランスをとる必要があり、mHealthソリューションが個人的なつながりを置き換えるのではなく、補完することを確実にする必要がある。
mHealthは、ヘルスケアへのアクセスについて革命的な変化をもたらしたが、その効果については限定的である。今後も、mHealth介入の効果的な社会実装のために重要な要因を明らかにし、効果的な社会実装につながる実証研究を推進していく、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・兵庫県立大学 プレスリリース


