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炎症性腸疾患に対する「大建中湯」の作用メカニズムをマウスで解明-理研

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2022年06月09日 AM09:18

大建中湯の作用メカニズムはほとんど明らかにされていなかった

(理研)は6月2日、マウスを用いて炎症性腸疾患における漢方「」の大腸での働きを科学的に解明したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの石箏箏大学院生リサーチ・アソシエイト、佐藤尚子専任研究員、大野博司チームリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Immunology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

大建中湯は、消化管疾患の予防・治療のほか、大腸がん手術後の腸閉塞予防や、炎症性腸疾患および集中治療中の患者の胃腸の働きを助ける目的でも使用されている。しかし、これまで医療従事者が大建中湯の効能を実感することはあっても、その作用メカニズムはほとんど明らかになっていなかった。

炎症性腸疾患は国の難病指定を受けている疾患で、日本でも4万人以上の患者が存在し、さらに増加の一途をたどっている。原因には、遺伝的背景や環境による外的要因だけでなく、食事の欧米化による腸内フローラ(腸内細菌叢)の影響も指摘されているが、詳細はまだ明らかになっていない。

自然リンパ球(ILC)は、2008年に初めて発見された免疫を担当するリンパ球の一つだが、抗原に対する受容体を持たないため、自然免疫を担当する。ILCは、その役割により3つに分類されるが、中でも3型自然リンパ球(ILC3)は腸管バリア機能を亢進させることで、腸内環境を至適な状態に保つために重要であることが知られている。しかし、ILCと漢方との関係性は不明だった。

大建中湯をあらかじめ経口投与した炎症誘導マウス、下痢が緩和し体重減少も抑制

研究グループは今回、炎症性腸疾患のモデルマウスに、ヒトに処方される量と等量の大建中湯(DKT)を経口投与し、大腸における腸内フローラの変化や産生される代謝物と免疫応答を解析した。

炎症性腸疾患のモデルマウスとして、デキストラン硫酸ナトリウム塩(Dextran Sodium Sulfate;)を自由飲水させることで大腸に炎症が生じた「炎症誘導マウス」を用いた。このマウスは、大腸の炎症と免疫応答の関係性が実際のヒト炎症性腸疾患と類似している。5日間デキストラン硫酸ナトリウム塩を与えて、体重の変化を調べたところ、炎症誘導マウス群()では重篤な下痢症状と体重の大幅な減少が見られたが、あらかじめ大建中湯をエサに添加し投与した炎症誘導マウス群(+DKT)では下痢の症状が緩和されただけでなく、体重減少も抑制されたという。

大建中湯でLactobacillus属の細菌が増加し、プロピオン酸の産生が上昇

これまでの報告により、炎症性腸疾患と腸内フローラの影響が指摘されていたことから、それぞれのマウス群の糞便の網羅的細菌叢解析を行った。その結果、DSSでは、ディスバイオシスという腸内フローラの多様性が低下した状態を呈していたが、DSS+DKTではディスバイオシスが改善され、コントロール群と近い腸内フローラが健康な細菌叢構成に近付いていた。

また、DSS+DKTでは、DSSと比較して「Firmicutes門」の細菌が著しく維持されており、さらに増加したFirmicutes門は「Lactobacillus属」であることがわかった。以上のことから、炎症状態では大建中湯がLactobacillus属を増加させることで、腸内環境の改善に寄与していることが明らかになった。

近年、細菌叢が代謝する代謝物が直接または間接的に免疫応答に影響を与えることが報告されている。そこで、それぞれのマウス群の糞便における代謝物を解析したところ、DSS+DKTでは、プロピオン酸が有意に増加していることも判明した。

プロピオン酸の刺激で増加したLTi-ILC3が大腸上皮に作用し、大腸の組織を修復・防御

さらに、炎症性腸疾患は免疫応答の破綻により発症することが知られているため、大腸においてこれら細菌叢と代謝物の影響を受ける免疫応答を調べた。フローサイトメトリーを用いて、大腸のリンパ球の細胞分布と細胞数を解析したところ、DSS+DKTでは、サイトカインの一つ「-22(IL-22)」を多く産生する「3型自然リンパ球(ILC3)」が増加していた。

ILC3には少なくとも3つの種類があることが知られている。そこで、どのILC3が大建中湯の影響を受けるのかを調べたところ、「リンパ組織誘導性ILC3(LTi-ILC3)」が特異的に増加することがわかった。そして、大建中湯の投与により増加するLTi-ILC3は、プロピオン酸受容体(GPR43)を強く発現していた。加えて、このILC3を特異的に欠損した炎症誘導マウスでは、大建中湯を投与しても体重と炎症症状の緩和が低かったことにより、大腸における大建中湯とLTi-ILC3の関係性が確認された。

以上の結果から、炎症誘導マウスに大建中湯を投与すると、Lactobacillus属の細菌が増加し、代謝物のプロピオン酸の産生が上昇する、そのプロピオン酸からの刺激により増加したLTi-ILC3が大腸上皮に作用して、大腸の組織修復・防御に働くことが明らかになった。

作用メカニズムの理解で大建中湯の効果を最大限に生かした処方が可能になると期待

これまで、大建中湯の作用メカニズムは明らかになっておらず、使用用途は医療従事者の経験に基づく判断でしか処方できていなかった。

「大建中湯は胃腸の動きを助ける目的から、さまざまな患者に処方されているが、今回の発見により、作用メカニズムを理解した上で大建中湯の効果を最大限に生かし、臨床所見に応じた適切な処方が可能になるものと期待できる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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