医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 「口を開ける力」の低下が嚥下障害のリスクとなることを明らかに-東京医歯大ほか

「口を開ける力」の低下が嚥下障害のリスクとなることを明らかに-東京医歯大ほか

読了時間:約 3分25秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年02月21日 AM11:30

開発した「開口力計」を用い、開口力と嚥下障害との関連を調査

東京医科歯科大学は2月18日、地域在住高齢者403人の口を開ける力()を計測、嚥下障害との関係を調査し、開口力の低下が嚥下障害のリスクとなることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション分野の戸原玄教授、柳田陵介大学院生、神奈川歯科大学附属病院障害者歯科学分野の原豪志診療科准教授らの研究グループと、複数の歯科大学が共同で行ったもの。研究成果は「Gerontology」に掲載されている。

嚥下障害は、食べ物や飲み物を咬んだり飲み込んだりする機能の障害で、誤嚥や窒息、低栄養の原因となる。重症になると誤嚥性肺炎の発症や経口摂取困難を引き起こし、胃瘻などの経管栄養を要するようになる。また、最初はむせやすい、飲み込みにくいといった軽い症状が出て、時間の経過とともに進行する場合が多いため、早い段階で発見し、適切に対処されることが必要だ。

嚥下障害の原因の一つとして、舌骨上筋の筋力低下が挙げられる。舌骨上筋は嚥下の際にのど仏を持ち上げ、気管を閉じ、食道の入り口を開くことにより、食べ物や飲み物を消化器官に送り込む。この筋力が衰えることにより、水分や食物が気管に入り、誤嚥を引き起こす。舌骨上筋の筋力低下についてはこれまで、嚥下造影検査という特殊な設備が必要な検査でしか評価することができなかった。一方で、この舌骨上筋は口を開ける際にも働くことがわかっており、研究グループは、口を開ける力を計測する開口力計という機器の開発と臨床応用を進めてきた。そこで今回、開口力計によって計測した開口力が、嚥下障害と関連するかを調査した。

対象は65歳以上、本気で口を開けた際の力「開口力」や舌圧、嚥下障害の有無などを評価

2018年11月から2020年1月の間に大学病院4施設および地域調査2会場を訪れた人のうち、研究への参加に同意した65歳以上の男女計460人が対象。全員に対して開口力計を用いて開口力を計測したほか、舌圧、下腿周囲長、握力、体格指数(BMI)の計測および嚥下障害の有無、日常生活動作、既往歴を聴取した。

開口力は、本気で口を開けた際の力を数値で示すものだ。舌骨上筋は口を開ける時に加え、飲み込み時にも収縮し、喉仏を引き上げる働きをすることから、開口力を舌骨上筋の筋力の指標として用いた。舌圧は、舌圧計を用いて、専用の風船を口の中に入れ、舌と上顎で思いっきり押しつぶしてもらう際の圧力を計測。計測値は舌筋の強さの指標として用いられる。下腿周囲長はふくらはぎの太さであり、全身の栄養状態や筋肉量、嚥下機能との関連が報告されている。握力は対象者の利き手の数値が用いられた。BMIは体重を身長の2乗で除したものであり、肥満度の指標として用いられている。

また対象者の食形態を調査し、食べている食形態によって嚥下障害の度合いを分類するFOIS(Functional Oral Intake Sclae)を用いて評価した。口から食事を取っていない人、つまり、胃瘻などの経管栄養を利用している人や食形態の調整が必要な人を嚥下障害ありと定義した。さらに、普通の食事を取っていても、EAT-10(Eating Assessment Tool-10)というアンケート調査を行い、飲み込みに関する困難さを抱えている人も嚥下障害ありと定義した。そして日常生活動作についてはバーセル指数を用い、食事や着替えといった日常の基本的な動作について介助が必要でない人を自立と定義した。

嚥下障害と開口力・下腿周囲長・日常生活動作が有意に関連

460人のうち、認知症がある人、顎関節症により開口力を計測できなかった人、食形態が明らかでなく嚥下障害の有無を判断できなかった人のデータを除外し、最終的に403人のデータが解析に用いられた。

まず403人のデータを元に嚥下障害のある人とない人の特徴を比較したところ、嚥下障害のある人は開口力・舌圧・下腿周囲長・BMI・日常生活動作の5項目について有意に低下していることがわかった。

次に多変量解析を行い、年齢・性別・嚥下障害を引き起こす疾患の有無、舌圧を調整した結果、嚥下障害の有無と有意に関連する因子は、開口力・下腿周囲長・日常生活動作の3項目だった。これらの結果より、開口力が小さいと嚥下障害のリスクとなることが示唆された。

口を開けるトレーニングで開口力が増加し、嚥下機能が向上する可能性

嚥下時の食道入口部の開大や気道防御において、重要な役割を果たす舌骨上筋の筋力を簡易的に評価する手法はこれまでになかった。研究により、開口力計を用いて測定される開口力により、舌骨上筋の筋力評価を嚥下障害の指標として有用であることが明らかになった。

開口力は、簡単にかつ身体への侵襲なく計測できることが特徴だ。食事中のむせこみや食べ物が喉に残るといった症状を持つ方に対して、開口力を計測することで、場所や職種を問わず、嚥下障害や嚥下機能の低下を早期に発見できる可能性が示唆された。また、開口力と嚥下障害との関連が明らかになったことから、口を開けるトレーニングを行うことで、開口力が増加し、嚥下機能が向上するということも考えられる。

さらに、今回の研究は地域在住の65歳以上の人を対象とした。そのため、対象者が病気を持っているとしても、慢性期のものがほとんどだった。「今後は脳卒中発症後などの急性期や、その後の回復期においても開口力が嚥下機能の評価に有効か、また慢性期においても近年話題となっているサルコペニア性嚥下障害と関連するかということについて、さらなる検討を進めていく」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 平均身長の男女差、軟骨の成長遺伝子発現量の違いが関連-成育医療センターほか
  • 授乳婦のリバーロキサバン内服は、安全性が高いと判明-京大
  • 薬疹の発生、HLAを介したケラチノサイトでの小胞体ストレスが原因と判明-千葉大
  • 「心血管疾患」患者のいる家族は、うつ病リスクが増加する可能性-京大ほか
  • 早期大腸がん、発がん予測につながる免疫寛容の仕組みを同定-九大ほか