医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 新型コロナ流行初期の感染で得た免疫、変異株再感染を防御し飛沫感染抑制-東大医科研

新型コロナ流行初期の感染で得た免疫、変異株再感染を防御し飛沫感染抑制-東大医科研

読了時間:約 2分56秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年02月18日 AM10:35

従来株に対して誘導された免疫応答がデルタ株感染防御に有効かハムスターで検証

東京大学医科学研究所は2月17日、新型コロナウイルスの従来株に感染した際に誘導される免疫が長期間にわたって維持されること、そしてこの維持された免疫はデルタ株による再感染に対してしても有効であり、かつ個体間での飛沫感染を抑制することを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

新型コロナウイルス()は、2019年12月にヒトでの感染が報告されて以来、現在に至るまで2年以上、同ウイルスによる世界的な流行が続いている。その間、さまざまな変異ウイルスが出現している。世界保健機関(WHO)は、これらウイルスに生じた変異が引き起こすリスクを分析・評価し、病原性・感染性・伝播性を高める変異やワクチン・治療薬の効果を低下させる変異を持つウイルスを「懸念される変異ウイルス(Variants of Concern; VOC)」に分類している。これまで、パンデミック初期のウイルス(従来株)の遺伝子情報をもとに設計されたmRNAワクチンの接種、あるいは従来株の感染によって誘導される免疫応答が、その後発生したVOCに指定されたウイルスに対しても感染防御効果を有するかどうかは不明だった。

そこで研究グループは、2021年に爆発的な流行を世界各国で引き起こした「(B.1.617.2系統)」に焦点をあて、従来株に対して誘導された免疫応答が、高い増殖性と感染伝播力をもつデルタ株への感染防御に有効であるか、COVID-19感染動物モデルであるハムスターを用いて検証した。

ファイザー・モデルナワクチン接種者の中和抗体活性は、従来株>デルタ株

研究グループはまず、(ファイザー社のBNT162b2、またはモデルナ社のmRNA-1273)を接種した人から採取した血清の、デルタ株に対する中和活性を調べた。その結果、mRNAワクチンの被接種者血清のデルタ株に対する中和抗体価は、従来株に対する中和抗体価と比べて、BNT162b2では3.9倍、mRNA-1273では2.7倍低いことが明らかとなった。

従来株感染から回復し長期経過したハムスター、デルタ株再感染に抵抗性

次に、COVID-19感染モデル動物のハムスターを用いて、従来株の感染によって誘導された免疫応答がデルタ株に対して有効であるかどうかを検証した。従来株に感染から回復後2か月間経過したハムスター血清の中和抗体活性について解析したところ、ワクチン被接種者の血清と同様に、デルタ株に対する中和活性は従来株よりも低いことがわかった。

さらに、新型コロナウイルス感染症従来株感染から回復したハムスターが、その後のデルタ株の再感染に対して抵抗性を示すかどうかを検証。従来株による初感染から長期間(2.5か月または15か月)経過したハムスターにデルタ株を再感染させた。その結果、デルタ株に再感染したハムスターの鼻から検出されるウイルス量は、感染歴を持たないハムスターと比べて大幅に低く、再感染個体の肺からはウイルスは全く検出されなかった。

従来株感染経験ハムスター、デルタ株感染で別の個体への飛沫伝播を起こさなかった

最後に、再感染個体と非感染個体の間で飛沫を介した感染伝播が起こるかどうかについて調べた。従来株に感染後4か月が経過したハムスターに、デルタ株を感染させ(感染個体)、感染個体のケージから、直接接触が起こらない飼育環境下(飼育ケージ内を二重の金網の柵で仕切り、お互いに5cm以上近づくことができないようにした)で、感染歴のないハムスター(曝露個体)を24時間飼育した。その後、それぞれのハムスターを個別の飼育ケースに移した。

結果、デルタ株に初めて感染したハムスターでは感染後の肺や鼻でウイルスが効率よく増殖し、さらに曝露個体全てからウイルスが検出された。一方、再感染させたハムスターでは、肺や鼻でウイルスは検出されず、曝露個体でも、鼻洗浄液を含む鼻と肺の検体からウイルスは検出されなかった。

オミクロン株に対する感染防御効果は今後検証が必要

今回の研究によって、従来株の感染によって誘導された免疫は、長期にわたり記憶され、抗原性の変化した変異株に対する感染防御に寄与することが明らかとなった。この免疫が、2021年末から爆発的に感染者が増加しているオミクロン株に対しても感染防御効果を有するかは今後検証する必要がある。

同研究を通して得られた成果について、研究グループは、変異株のリスク評価など行政機関が今後のCOVID-19対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となるとしている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 「心血管疾患」患者のいる家族は、うつ病リスクが増加する可能性-京大ほか
  • 早期大腸がん、発がん予測につながる免疫寛容の仕組みを同定-九大ほか
  • 心臓手術後のリハビリや予後にプレフレイルが及ぼす影響を解明-兵庫県立はり姫ほか
  • 糖尿病性神経障害、発症に細胞外基質のコンドロイチン硫酸が重要と判明-新潟大ほか
  • 「リウマチ・潰瘍性大腸炎」治療薬の薬疹リスクアレルを発見-理研ほか