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心不全の腎機能障害に「腎うっ血」が関与していることをマウスで確認-京都府医大ほか

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2021年12月09日 AM11:30

心不全で生じる静脈での血液のうっ滞が腎機能障害を引き起こす機序は不明だった

京都府立医科大学は12月7日、心不全で生じる静脈での血液のうっ滞()が、腎機能障害の強力な悪化因子であることを確認し、そのメカニズムについて解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科腎臓内科学の草場哲郎学内講師、木谷昂志研修員および川崎医科大学腎臓高血圧内科の城所研吾講師の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International」に掲載されている。


画像はリリースより

高齢化に伴い心不全、腎不全の患者数は全世界で増加しており、患者本人の負担となるだけでなく、国民医療費への影響も考慮すると、その対応は急務だ。心不全と腎不全の間には「心腎連関」といわれる互いの病状を悪化させる悪性サイクルが存在する。腎機能が低下していることは、心不全の発症や重症化、死亡率の悪化因子であることが、多くの臨床研究で示されている。

これまでは、心臓の機能が低下することに伴い、腎臓に十分血液を送り込めないことが、心不全患者で腎不全が発症しやすくなる原因と考えられていた。しかし近年は、心臓から十分に血液が送り出せている患者でも腎不全を発症することが示されており、心臓へ血液を戻す静脈内の血液のうっ滞(うっ血)がその原因として注目されている。しかし、うっ血が腎機能障害を引き起こす機序についてはいまだ不明な部分が多い。そこで研究グループは今回、マウスを用いた実験で機序の解明を試みた。

腎うっ血モデルマウスを作製して観察、うっ血は腎臓での傷害を悪化させ傷害後の組織の修復を妨害

研究グループは、うっ血が腎臓に及ぼす影響を検討するため、マウスを用いた新たな動物実験モデルを作製した。左右の腎静脈の間の下大静脈を糸でくくることで狭窄させ、左の腎臓だけ下大静脈へ血液が戻りにくくなる(腎うっ血を生じる)ように処置を加えた。さらに、生体内イメージングを用いて、マウスが生きた状態のまま顕微鏡で腎臓を観察すると、うっ血のある腎臓では毛細血管が拡張し、その中を流れる血液の速度が極端に低下していることがわかった。

うっ血腎に対して、一過性の血流遮断(虚血再灌流モデル)によるごく軽度の傷害を加えただけでも、腎臓の顕著な障害が出現した。その傷害された腎臓では毛細血管の中に大量の白血球が充満していた。生体内イメージングでは、うっ血した腎臓に傷害を加えた際に白血球が血管内に接着し、血管外へ遊走していく様子が観察された。また傷害を与えた7日後には、うっ血腎では高度に線維化を来たしていた。このことから、うっ血は腎臓での傷害を悪化させること、傷害後の組織の修復を妨げることが明らかになった。

NFκBシグナル抑制薬投与でマウスのうっ血に伴う腎障害の悪化を予防

組織の傷害時には、血管内皮細胞で炎症を惹起するシグナル(NFκBシグナル)の活性化により、白血球が接着する際に必要な接着因子が発現する。先の観察で傷害と腎うっ血を与えたマウスの毛細血管内に白血球が充満していたことから、白血球と血管内皮細胞の接着を抑制する薬剤(NFκBシグナルの抑制薬)に注目。マウスにNFκBシグナルの抑制薬を投与すると、毛細血管内の白血球の充満も抑制され、うっ血に伴う腎障害の悪化が予防された。これは、血管内皮への白血球の接着が同薬によって抑制され、結果として腎臓の障害が予防された効果と考えられるという。

白血球の接着に介入する薬剤の投与で、心不全時の腎機能障害を予防・改善できる可能性

今回の研究成果により、血液が全身から心臓に戻る通り道である大静脈内の血圧が上昇し腎臓のうっ血を生じると、腎臓内の血流の速度が低下すること、そして、ごく軽度でも腎臓に障害が加わると、血液を流れる白血球が腎臓に蓄積し、腎機能の障害を起こすことが明らかとなった。

「現在の主な治療法であるうっ血を取り除く治療に加え、今後は白血球の接着に介入する薬剤の投与により、心不全時の腎機能障害を予防、改善させることが期待される」と、研究グループは述べている。

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