医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > タウオパチーの病理を再現するモデルマウスを開発、世界初-福岡大ほか

タウオパチーの病理を再現するモデルマウスを開発、世界初-福岡大ほか

読了時間:約 3分13秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年10月07日 AM11:45

ADなどのタウオパチー、疾患により3Rタウ/4Rタウの蓄積に違い

福岡大学は10月6日、ゲノム編集技術を用いて、これまでのマウスモデルの欠点である、ヒトとマウスのタウの発現様式の違いを克服した新しいマウスモデルの作製に成功したと発表した。この研究は同大薬学部免疫・分子治療学研究室の細川雅人准教授、東京都医学総合研究所認知症プロジェクトの長谷川成人参事研究員、設樂浩志遺伝子改変動物室長らの研究グループと、筑波大学の新井哲明教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Brain」に掲載されている。


画像はリリースより

(AD)、(CBD)、ピック病(PiD)などでは神経細胞やグリア細胞内にタウタンパク質が異常蓄積し、神経変性が生じることにより認知症が発症すると考えられている。このようにタウが蓄積する疾患はタウオパチーと呼ばれる。タウタンパク質は、微小管結合領域が3回繰り返しの「3リピート(3R)タウ」と4回繰り返しの「4リピート(4R)タウ」に大別され、ヒト成体脳では6種類のアイソフォームが発現している。ADでは3Rタウと4Rタウの両方が、CBDでは4Rタウのみが、PiDでは3Rタウのみが凝集・蓄積することがわかっている。これは疾患によって特徴的な蓄積タウアイソフォームがあることを示している。

さらに、このタウ蓄積病理は脳内で広がって行くことが報告されており、この現象は「伝播」として知られている。アルツハイマー病ではタウの蓄積部位・広がりと臨床症状に相関性があることが報告されている。タウオパチーの病態機序解明や治療薬の開発には病理を正確に再現できるマウスが必要とされてきた。

ヒトとマウスではタウの発現様式が異なり、疾患特異的なアイソフォームが再現できなかった

しかし、過去に作製されたマウスモデルにおいて、AD患者脳の不溶性画分を注入したマウス脳では、4Rタウの蓄積を誘導することはできたが、3Rタウの蓄積は誘導できていなかった。また、PiD患者脳の不溶性画分の注入実験においても、3Rタウの蓄積を誘導できていなかった。

その理由として、まずヒトとマウスにおけるタウの発現様式の違いが考えられた。ヒトは胎児期脳で3Rタウのみを発現しているが、その後、3Rと4Rタウの両方が発現するようになる。一方、ワイルドタイプのマウスは胎児期~幼少期脳で3Rタウのみを発現しているが、成体ではほとんどすべてのタウが4Rタウに置き換わるという大きな違いがある。

これまでに報告された研究では、これらの違いを全く考慮せずに行ったため、疾患に特徴的なアイソフォームの蓄積を再現することができていなかった。ヒトと同じ発現様式のタウマウスを開発することが必要であったが、過去に報告された多くの実験で4Rタウ・トランスジェニックマウスを用いていたことが、3Rタウの蓄積を誘導できなかった理由として考えられた。

開発したTau3R/4Rマウスに患者由来タウ線維を注入、シード依存的異常タウの蓄積を観察

研究グループは、タウオパチーの病理を再現するマウスモデルを構築する目的で、これまでのタウ注入実験マウスモデルの欠点を克服するため、6アイソフォームタウを発現する新しいマウスを作製することにした。まず、ゲノム編集技術を用いて、ヒト成体脳と同様に、成体になっても3Rと4R両方のタウを生理的に正常量発現する(過剰発現系ではない)(Tau3R/4Rマウス)の作製に成功した。

次にAD、CBD、PiD患者剖検脳から界面活性剤不溶性画分を抽出し、これらに含まれるタウ線維をTau3R/4Rマウス脳内に注入した。一定期間経過後にタウ蓄積病理の形成・伝播が観察されるか検討を行った。3Rタウ特異抗体、4Rタウ特異抗体用いて免疫組織化学染色をおこなったところ、AD(3R+4Rタウオパチー)注入マウスではマウス内在性の3Rと4R両方のタウが、CBD(4Rタウオパチー)注入マウスでは4Rタウのみが、PiD(3Rタウオパチー)注入マウスでは3Rタウのみが蓄積し、アイソフォーム特異的なシード依存性増幅反応が観察された。

タウ線維注入実験でピック球様の病理を再現、世界初

ADタウ線維を注入したマウス脳をタウのリン酸化抗体(AT8)で染色したところ、時間経過に伴って、注入部位である線条体でのタウ蓄積病理が増加し、さらに線条体と直接神経回路がつながっている大脳皮質、視床、扁桃体へのタウ蓄積病理の伝播が認められた。

最後に、PiDタウ線維注入マウス脳を詳しく調べたところ、ADやCBDタウ線維を接種した時には観察されなかった球状のタウ蓄積病理が観察された。これらはヒトPiDで観察されるピック球に非常に良く似ていた。タウ線維注入実験でピック球様の病理が再現されたのは世界初という。

これらの実験により、異常タウにはアイソフォーム特異的なシード依存性凝集を引き起こす能力があること、異常タウに伝播能があること、脳内に注入したヒトタウ線維が種の壁を越えて内在性のマウスタウの蓄積を誘導することができる、というタウが持つプリオン様の性質が確認された。「この新規マウスを用いたタウ線維注入モデルは、タウ伝播メカニズムの解明や、タウの伝播抑制作用を持つ薬剤の探索に用いることができると考えている」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 双極症、RNF216のコピー数バリアントと有意な関連を発見-名大ほか
  • 未病早期発見や遠隔診断に向けたAI活用マルチモーダルセンサパッチ開発-北大ほか
  • SGLT2阻害薬、腎臓の酸素状態改善で腎保護の可能性-大阪公立大ほか
  • 「働きすぎの医師」を精神運動覚醒テストにより評価する新手法を確立-順大ほか
  • 自己免疫疾患の発症、病原性CD4 T細胞に発現のマイクロRNAが関与-NIBIOHNほか