医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 敗血症の国内実態調査、死亡率は低下、患者数・死亡数は増加の傾向-千葉大ほか

敗血症の国内実態調査、死亡率は低下、患者数・死亡数は増加の傾向-千葉大ほか

読了時間:約 3分6秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年09月29日 AM10:35

日本初の敗血症の患者数や死亡数に関する全国的なデータ

千葉大学は9月28日、2010~2017年の日本の入院患者5000万人以上のデータを抽出し、日本における敗血症の患者数や死亡数に関する全国的なデータをまとめ、日本の敗血症の実態を初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院救急集中治療医学の中田孝明教授、医学部附属病院の今枝太郎特任助教らJapan Sepsis Alliance(日本敗血症連盟)の研究グループによるもの。研究成果は、「Critical Care」に掲載されている。


画像はリリースより

敗血症とは、細菌やウイルスなどの感染に対する体の反応が、自らの組織や臓器(心臓、肺、腎臓など)を傷害することで生じる生命の危険を及ぼす状態のこと。組織障害や臓器障害をきたすため、集中治療室での治療が必要となる。ショックや著しい臓器障害をきたす場合は死に至る場合もある。現在、世界で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症による呼吸不全の重症例も敗血症である。

敗血症の発症率と死亡率に関しては、地域間格差があるといわれているが、日本における敗血症の患者数や死亡数に関する全国的なデータはこれまでなかった。、日本感染症学会は、敗血症の啓発と対策を行うためにJapan Sepsis Alliance(日本敗血症連盟)を立ち上げ、その中の研究グループがビッグデータを活用して日本の敗血症の実態を調べた。

2010~2017年のDPCデータから「感染に伴う臓器障害をきたした患者」を抽出

現在の敗血症の国際的な定義であるSepsis-3が2016年に発表され、敗血症は「感染症に伴う臓器障害をきたしている状態」とされた。海外の施設からはこの新たな定義を用いた敗血症患者の死亡率の年次推移や、敗血症に対する治療内容や結果などの報告がされている。しかし、その結果には地域間や人種間の違いがあることから、これらのデータを一般化して日本の実態に適用することはできない可能性があった。

研究グループは、日本独自の診療報酬の包括評価制度であるDiagnosis Procedure Combination ()の保険請求に基づくデータベースから敗血症患者を抽出し、敗血症の実態を明らかにするために研究を行った。DPCデータ上では、感染症に伴う臓器障害をきたしている、すなわち敗血症にも関わらず「」という病名で登録されていない症例や、「」と登録されていても新定義に当てはまらない症例も多数存在する。これを踏まえ、2010~2017年のDPCデータから、血液培養を採取し抗菌薬投与を行った患者を「重症感染症患者」として抽出し、その中で感染に伴う臓器障害をきたした患者を最終的に「敗血症患者」と定義して抽出作業を行った。抽出されたデータから敗血症患者数やその死亡数/死亡率の推移、感染巣、患者背景、治療などを解析した。

敗血症患者の年齢中央値76歳、呼吸器感染症が最多

2010~2017年までの8年間で約5000万人の成人入院患者が含まれ、このうち約200万人(約4%)が敗血症を発症し、約36万人が敗血症によって死亡していた。敗血症患者の年齢の中央値は76歳。主な併存疾患は、悪性腫瘍(約35%)、高血圧(約26%)、糖尿病(約22%)などで、高血圧や糖尿病の患者数は年々有意に増加していた。感染源としては、呼吸器感染症が最多(約41%)。臓器障害については、呼吸不全患者が最も多く、2017年には約82%を占めていた。入院期間の中央値は約30日で、院内死亡率は約20%であった。

敗血症患者数、2010年約11万人から2017年約36万人に

経年的な変化として、入院患者全体に占める敗血症患者の年間割合は、2010年に約11万人(入院患者全体の約3%)から2017年は約36万人(入院患者全体の約5%)に増加。入院患者1,000人当たりの敗血症の年間死亡数も、2010年の約6.5人から2017年は約8人に増加していた。また、敗血症が原因で死亡する人の数は、2017年に年間約6万人で2010年比2.3倍に増加。一方、敗血症患者の死亡率は、2010年の約25%から2017年の約18%と、減少傾向を示した。

超高齢社会の日本、患者割合・死亡数の増加が予測される

DPCデータを用いて日本の敗血症患者のより正確かつ網羅的な疫学調査を行った結果、日本における敗血症患者の死亡率は低下傾向である一方、患者数や死亡数は増加傾向であることが明らかとなった。これらの傾向は欧米のデータと一致している一方、敗血症患者の割合や死亡数の割合は高い傾向にある。これらの一因として日本が超高齢社会をむかえている点があげられ、今後もこれらの数値はさらに増加するものと予想される。

「今回の研究結果は、敗血症の適切な予防・治療・後遺症対策などを今後行政と共同で構築し実施していく上で重要なものであると考える。Japan Sepsis Allianceはこれからも引き続き日本の敗血症対策を推進していく」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか
  • 乳児股関節脱臼の予防運動が効果的だったと判明、ライフコース疫学で-九大ほか
  • 加齢黄斑変性の前駆病変、治療法確立につながる仕組みを明らかに-東大病院ほか
  • 遺伝性不整脈のモデルマウス樹立、新たにリアノジン受容体2変異を同定-筑波大ほか
  • 小児COVID-19、罹患後症状の発生率やリスク要因を明らかに-NCGMほか