医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 上部尿路上皮がん、遺伝子変異による5つの病型、尿検査が有用な可能性-京大ほか

上部尿路上皮がん、遺伝子変異による5つの病型、尿検査が有用な可能性-京大ほか

読了時間:約 4分7秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年06月16日 AM11:45

、確定診断の検査は患者に負担がかかるという課題

京都大学は6月15日、上部尿路上皮がんの腫瘍検体および術前に採取した尿を用いて大規模なゲノム解析を行った結果、上部尿路上皮がんは遺伝子変異に基づき、異なる生存率を示す5つの分子病型に分類できること、術前の尿中にはがん組織と同一の遺伝子異常が認められ、上部尿路上皮がんの精度の高い診断が可能となることを証明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科腫瘍生物学講座の小川誠司教授(兼:京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)主任研究者)、藤井陽一同研究員(兼:同所属研究者)、東京大学大学院医学系研究科泌尿器外科学分野の久米春喜教授、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターの宮野悟教授(研究当時、現・東京医科歯科大学M&Dデータ科学センター長)らを中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Cell」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

近年の次世代シーケンサーによる大規模な遺伝子解析により、さまざまながんにおける遺伝子異常の全体像が明らかとなり、新規治療薬や診断方法の開発などの臨床応用が進んでいる。尿路上皮がんは、尿路(腎盂、尿管、膀胱)に発生するがんで、上部尿路上皮がんはそのうち腎盂、尿管に発生するがんの総称だ。膀胱がんが尿路上皮がん全体の大部分(90~95%)を占め、複数の大規模なゲノム解析が行われてきた一方で、上部尿路上皮がんは尿路上皮がんの5~10%を占めるに過ぎず、その希少さのため、大規模なゲノム解析は今まであまり行われておらず、その遺伝子異常の全貌は十分に解明されていなかった。

上部尿路上皮がんは進行するまで自覚症状に乏しく、しばしば発見時には進行、転移をきたしていることがあり、臨床における大きな問題の一つとなっている。一般に尿路上皮がんでは超音波検査や尿細胞診が手軽で身体に負担のかからない検査として通常行われるが、解剖学的な位置の問題から、上部尿路上皮がんは膀胱がんと比べこれらの検査での発見、診断は困難とされる。最終的に尿管鏡や造影検査などが確定診断に利用されるが、身体に負担がかかり、副作用の可能性もあることから、より簡便で感度の高い検査の開発が望まれていた。

尿路上の部位ごとに特徴的な遺伝子異常を確認

研究グループは、国内3施設(東大医学部附属病院、同愛記念病院、虎の門病院)から合計199例の上部尿路上皮がんの腫瘍検体を採取し、京都大学にて次世代シークエンサーを用いた網羅的遺伝子変異解析を行った。まず、上部尿路上皮がんにおいて各症例がどのくらいの遺伝子変異を持つかを調べたところ、5.5%の症例は他の症例と比べ著しく遺伝子変異の多い(高頻度変異)状態だった。これらの多くが大腸がん等で頻繁にみられる、ミスマッチ修復遺伝子の異常に起因するものだった。また、どのような遺伝子に高頻度に変異が起きているかを解析し、26個の重要なドライバー遺伝子を同定した。

次に、膀胱がんの先行研究データを用いて腎盂、尿管、膀胱の各部位のがんにおける遺伝子異常の比較を行ったところ、一部の遺伝子異常において部位毎に頻度の差があることが判明した。例えば、(HRAS、KRAS、NRAS)の変異は腎盂がんに多く、ERBB2の変異は膀胱がんに多く、KDM6A、TERTプロモーターの変異は膀胱がんおよび腎盂がんで多く認められた。一方、尿管がんではKMT2Dの変異や高頻度変異の症例が多く認められた。これらのことから、同じ尿路上皮という細胞に発生するがんでも、解剖学的部位により発がんに関わる遺伝子が異なる可能性が示唆された。

「高頻度変異型」「FGFR3変異型」など5つに分類

次に研究グループは、遺伝学的特徴に基づき上部尿路上皮がんを分類することを試みた。高頻度変異を持たない症例における遺伝子変異パターンを調べたところ、TP53、MDM2、RAS(HRAS、KRAS、NRAS)、FGFR3の遺伝子異常がほぼ排他的に存在することがわかった。これらの遺伝学的異常に基づき、上部尿路上皮がんを「高頻度変異型」「TP53/MDM2変異型」「RAS変異型」「FGFR3変異型」「トリプルネガティブ」(いずれの遺伝学的特徴も持たない病型)に分類した。

これらの分子病型はそれぞれ異なる病理学的特徴および予後を示すことがわかった。例えば、高頻度変異型やFGFR3変異型は、早期あるいは低悪性度の傾向にあり、生存率も良好であるのに対し、TP53/MDM2変異型やトリプルネガティブは、より進行した高悪性度の病理像を示し、生存率も低い傾向にあった。そして、RAS変異型はこれらの中間の病理学的特徴、生存率を示した。

また、遺伝子変異の同定だけでなく、染色体数の異常(コピー数異常)、遺伝子発現、およびエピジェネティックな異常(DNAのメチル化)についても解析を行い、各病型の分子学的な特徴を評価した。解析の結果、TP53/MDM2変異型やトリプルネガティブは、コピー数異常が多く、RAS変異型はCpGアイランドと呼ばれる遺伝子発現の制御領域のメチル化が亢進している傾向にあることがわかった。遺伝子発現解析の結果、TP53/MDM2変異型は免疫チェックポイント分子を含む免疫関連遺伝子の発現が高い傾向にあり、免疫チェックポイント阻害薬が有効である可能性が示唆された。

術前に採取した患者の尿からがん組織と同一の遺伝子異常、82.2%

上述の通り、既存の方法による上部尿路上皮がんの診断は非常に困難だ。そこで研究グループは、尿中に脱落してくるがん細胞に注目し、尿からがんの遺伝子異常を検出することを考えた。上部尿路上皮がん患者78例の術前に採取した尿からDNAを抽出し、遺伝子異常の検出を試みたところ、82.2%の症例でがん組織と同一の遺伝子異常が認められた。これは尿細胞診による感度(32.9%)よりも有意に高い値だった。また、これらの遺伝子異常は上部尿路上皮がん患者の術後に採取した尿や、上部尿路上皮がん以外の疾患の患者さんから採取した尿からは全く認められなかった。これらのことから、尿中の遺伝子異常を調べることにより、患者に負担のかからない、高い精度の検査が可能となることが示唆された。

健診などでのスクリーニング検査への応用、遺伝子異常に応じた治療法の選択に期待

今回の研究は上部尿路上皮がんの研究では最大規模のものであり、その遺伝子異常の全貌が明らかにされた。「提唱した病型分類並びに尿を利用した診断方法は、より簡便かつ正確な診断を可能とし、今後、健診などでのスクリーニング検査への応用や、それぞれの患者さんの遺伝子異常に応じた治療法や薬剤の選択が可能となり、上部尿路上皮がんの治療成績を飛躍的に向上させることが期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 低悪性度IDH変異神経膠腫、患者データの数学的解析で最適な治療戦略が判明-名大ほか
  • 乳酸菌YRC3780株の摂取、ストレスによるコルチゾル濃度の変動に影響-北大ほか
  • 妊婦の染毛剤使用、子どもが3歳時にアレルギー疾患になりやすい傾向-山梨大
  • 受容体CHRNB2、胃がん転移の標的分子となる可能性-名大
  • 加齢は2型糖尿病と筋肉量低下の双方向の関係に影響を及ぼす可能性-広島大ほか