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狂犬病患者の臨床経過報告を公表、2020年に国内14年ぶり-感染研

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2021年04月21日 PM12:00

外国籍の30代男性、ペット飼育なし

国立感染症研究所は4月20日、2020年に国内で14年ぶりに確認された狂犬病患者について、臨床経過報告を公表した。この報告は、豊橋市民病院脳神経内科の野崎康伸氏、岩井克成氏、同救急科の斗野敦士氏、同看護局の福井通仁氏、伊藤賀代子氏、高橋一嘉氏、同薬局の森章典氏、同中央臨床検査室の山本優氏、山本恵子氏、国立感染症研究所ウイルス第一部の西條政幸氏、伊藤(高山)睦代氏、佐藤正明氏、加藤博史氏、河原円香氏、同感染病理部の鈴木忠樹氏、佐藤由子氏、飛梅実氏、同獣医科学部の前田健氏、野口章氏、加来義浩氏、奥谷晶子氏、原田倫子氏、井上智氏、同感染症疫学センターの鈴木基氏、松井珠乃氏、島田智恵氏によるもの。

国内では1957年以降、狂犬病輸入症例として1970年に1例、2006年に2例が報告されていた。今回の症例は、外国籍の30代男性、日本ではアパートで職場の同僚1人と同居していた。既往歴として特記すべき事項はなく、ペットの飼育もなかった。

発熱と痛み、水を怖がり幻覚と異常行動で発症7日後に受診

主訴は発熱と異常行動だった。現病歴は以下の通り。

フィリピンからの来日3か月後に両足首の痛みを訴え、発症2日後には腰痛も出現したため、鎮痛剤の内服により経過をみた。翌日には日本にはいないはずの妻が見えるという幻覚が出現した。水が怖いという訴えはあったが、水分補給や食事はわずかながらできていた。4日後、夜中に妻を探し回るという異常行動が出現、その翌日には歩行が困難となり7日後に豊橋市民病院を受診した。介助なしでは歩けなくなり、落ち着きがない、会話のつじつまが合わないなどの異常行動が認められた。発熱も認められたため、意識障害の精査・治療目的で入院となった。

入院時現症は、意識レベルGCS:E4V4M6、体温38.5℃、脈拍140/分、血圧135/67mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)98%(室内気)だった。

検査所見は、白血球2万1,080/μL(好中球74.1%、リンパ球14.4%、単球11.3%、好酸球0.0%、好塩基球0.2%)、ヘモグロビン16.3g/dL、血小板16.0×104/μL、クレアチンキナーゼ883U/L、ナトリウム135mEq/L、カリウム3.3mEq/L、クロール95mEq/L、C反応性タンパク1.15mg/dL、髄液検査:細胞数34/μL(単核球23/μL、多核球11/μL)、タンパク質35mg/dL、糖76mg/dL、血液・尿・髄液培養検査:すべて陰性、だった。

入院翌日には全身状態が極めて不良、3日目にウイルス確認

入院後、セフトリアキソン2g/day投与による治療、輸液管理および経管栄養を開始したが、発熱と意識障害が続き、入院翌日には会話困難となった。入院時の頭部CTでは明らかな異常は指摘できなかったが、何らかの脳炎を疑い、腰椎穿刺による脳脊髄液検査を実施した。ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg/day×3日間)および単純ヘルペス脳炎を疑いアシクロビル750mg/dayによる治療を追加した。

水を怖がるエピソードが認められたことから狂犬病が鑑別診断に挙げられ、国立感染症研究所に検体が送付された。午後には体温が40℃まで上昇し、体動激しく、いびき呼吸となったため気管挿管を行い、深鎮静で管理する方針とした。狂犬病の可能性を考慮し、内径7.5mmカフ上吸引付き挿管チューブを使用した。鎮痛鎮静にはプロポフォール、ミダゾラム、フェンタニルを使用して意識レベルをRASS-3以下に維持した。人工呼吸器設定は従圧式に設定してSpO2と呼気終末炭酸ガス濃度をそれぞれ94%以上、40mmHg前後に維持した。

入院3日目に施行した頭部MRIのFLAIR画像では脳底部や脳表、大脳深部白質に散在する高信号域が観察された。国立感染症研究所から午後には唾液中から狂犬病ウイルス遺伝子が検出された、との連絡があった。

入院4日目にフィリピンでの犬咬傷歴を確認、輸入狂犬病と診断

入院4日目には唾液が多く、アミトリプチン30mg/dayの経管投与を開始したが制御困難であった。フィリピンでの犬による咬傷歴(8か月前、左足首)が確認され、ウイルスゲノムもフィリピンの流行株に近縁であることがわかったため、輸入狂犬病と診断された。

入院5日目には倫理委員会の承認を得た上でリバビリン1,000mg/dayとアマンタジン200mg/dayの経管投与を開始した。入院10日目から高ナトリウム血症が進行し、自発呼吸も弱く人工呼吸器に同調するようになった。入院11日目には瞳孔が散大し対光反射が陰性化した。入院15日目には経管栄養の収まりが不良となったため中心静脈栄養に切り替えた。入院18日目には心拍数の低下と血圧の変動を繰り返し、入院27日目に永眠した。病理学的検査により大脳から足裏皮膚の末梢神経に至るまで、広汎に狂犬病ウイルス抗原が認められた。

感染予防策を徹底、14人は暴露後ワクチン接種

狂犬病ウイルスのヒトからヒトへの感染は極めてまれだが、唾液等からの感染リスクは否定できない。今回、患者を集中治療部での個室管理とし、標準的な感染予防策に加え、飛沫感染予防策と接触予防策を徹底することにした。感染症管理センターの看護師は、毎朝のカンファレンスで患者の状態の把握と不明点の確認を行った。

狂犬病であると疑われる前に治療にかかわったスタッフ17人に面談を行い、患者の唾液および体液が傷口や粘膜へ曝露したことが否定できない場合には、参照した文献に従って狂犬病ワクチンの曝露後接種を行った。具体的には、初診時に対応した医師1人、内科外来看護師3人、集中治療部看護師10人の14人が該当した。患者の搬送にかかわった会社の同僚2人、通訳者1人、同居者1人も曝露後接種を受けた。また、病理解剖の際の曝露に備えるため、病理医1人、病理検査技師1人、清掃スタッフ3人に曝露前接種を行った。

原因不明の発熱や意識障害、海外流行や日本でまれな疾患にも留意を

狂犬病は致死性ウイルス性脳炎であり、有効な治療法はない。今回の患者は入院時から軽度の意識障害があり、日本語の会話には通訳が必要であったことから、咬傷歴等の情報を得ることができなかった。入院翌日には全身状態が極めて不良となり、急性神経症状期から昏睡期に至る経過が非常に早かったため、診断がつかないまま死亡していた可能性もあったと考察された。

原因不明の発熱や意識障害を呈する患者については、慎重かつ適切な対応が求められる。「海外で流行している疾患や日本では発生がまれな疾患についても留意し、病原体検査が必要な場合には保健所や国立感染症研究所に相談するとよい」として、同報告は締めくくられている。

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