アビガンは、新型・再興型インフルエンザの流行時に他の抗インフルエンザウイルス薬が効かない場合、使用が検討される医薬品。同社は3月に、人工呼吸器や酸素療法が不要な肺炎を罹患する入院患者156例を対象に第III相試験を開始。アビガン投与群とプラセボ投与群に割り付け、被験者には割り付けられた薬剤を知らせずに投薬して比較する単盲検試験で実施。体温や酸素飽和度、胸部画像での症状軽快とウイルスの陰性化までの時間を主要評価項目として検討した。
その結果、主要評価項目の中央値について、アビガン投与群が11.9日、プラセボ投与群が14.7日と統計学的な有意差が認められ、アビガンの投与で早期に症状を改善することが示された。症状の軽快かつウイルス陰性化の起こりやすさを示す指標「調整後ハザード比」で1を上回ればアビガン投与の方が好ましいと判定されるが、1.593と良好な結果が認められた。安全性上の新たな懸念は認められなかった。
アビガンは、ウイルスのRNAポリメラーゼを選択的に阻害することで増殖を防ぐメカニズムを持つ。5月には、安倍晋三前首相が治験や臨床研究で有効性が認められることを前提に早期承認に前向きな意向を示していた。
ただ、藤田医科大学が発表した新型コロナウイルス感染症への適応外使用に関する観察研究の中間報告では、重症患者の改善率は比較的低く、約3割は病状が悪化するなど、第III相試験の結果が待たれていた。
同社は今後、試験の詳細なデータ解析や申請に必要な業務を迅速に進め、来月中にも一部変更承認申請を行う予定。レムデシビルは投与対象を人工呼吸器などが必要な重症患者に限定するのに対し、アビガンが承認されれば、非重篤な肺炎患者への治療に道を開くことになる。
アビガンの供給体制については、政府が今年度中に備蓄量を約200万人分まで拡大することを決定している。政府からの増産要請を受け、グループ子会社の設備増強に加え、国内外のパートナー企業十数社との連携により、既に約30万人分の生産体制を構築した。10月以降にはさらに10万人分の生産能力を拡充する計画だ。