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肥満治療薬オルリスタットで未分化iPS細胞を選択的に除去する手法を開発-慶大ほか

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2020年09月09日 PM12:15

腫瘍化の原因となる未分化iPS細胞を高効率に除去、安全性高の移植用細胞を作製

慶應義塾大学は9月8日、ヒトiPS細胞由来の分化細胞集団から、臨床応用の課題であった腫瘍化の原因となる未分化iPS細胞を高効率に除去し、より安全性を高めた移植用細胞を作製することに成功したと発表した。この研究は、同大医学部循環器内科学教室の遠山周吾特任講師、同救急医学教室の田野崎翔助教ら、同医化学教室の末松誠教授ら、同システム医学講座の洪実教授ら、株式会社リピドームラボの研究グループによるもの。研究成果は、Cell Pressが発刊する米科学誌「iScience」に掲載されている。

ヒトiPS細胞は、多種類の体細胞に分化できる能力を有している反面、分化させた細胞集団の中に未分化iPS細胞が残存する性質があることがわかっている。仮にこうした未分化iPS細胞が生体内に移植されると、腫瘍を形成する危険性があるため、未分化iPS細胞を除去する手法の開発が望まれてきた。

細胞の生存にとって重要な栄養素は細胞の種類によって異なっているとされる。2016年に研究グループは、ヒトiPS細胞においてグルコースおよびグルタミンの代謝が活発であること、心筋細胞は乳酸をエネルギー源とすることを明らかにし、培養液に含まれているグルコースおよびグルタミンを除去し乳酸を添加することで未分化iPS細胞を除去する手法を報告した。しかし、心臓以外の領域の再生医療では応用できないという問題があった。

そこで、今回、研究グループは、ヒトiPS細胞において特徴的な代謝経路を探索したところ、脂肪酸の合成が活発に行われていることを見出し、さらにヒトiPS細胞の生存に重要な役割を担っていることを明らかにした。


画像はリリースより

ヒトiPS細胞では脂肪酸合成経路に関わる代謝酵素の発現が最も高い

まず、ヒトiPS細胞に特徴的な代謝経路を探索するため、ヒトiPS細胞と分化した心筋細胞における代謝酵素の発現の違いをプロテオーム解析により網羅的に調べた。その結果、ヒトiPS細胞では、分化した心筋細胞に比べて脂肪酸合成経路に関わる代謝酵素の発現が最も高いことが判明。そこで、肥満治療薬として米国食品医薬品局()に認可されている脂肪酸合成阻害薬オルリスタットを用いて脂肪酸合成を阻害したところ、ヒトiPS細胞の増殖が停止し、細胞が死滅することがわかった。

その分子機序を明らかにするため、メタボローム解析を行ったところ、ヒトiPS細胞内におけるホスファチジルコリンをはじめとする細胞内の脂質の低下が原因であることがわかった。

未分化iPS細胞除去で、ヒトiPS細胞由来の神経細胞のみを選別

次に、オルリスタットが他の細胞の生存に影響を及ぼさないかを評価したところ、ヒトiPS細胞から分化した心筋細胞だけなく、神経細胞や肝細胞の生存に対しても影響を及ぼさないことがわかった。

また、ヒトiPS細胞から分化させた細胞集団に未分化iPS細胞が残存している状況を再現するために、未分化iPS細胞とヒトiPS細胞から分化した心筋細胞を一緒に培養し、それらの細胞にオルリスタットを添加。その結果、未分化iPS細胞のみを選択的に除去できることが判明した。

さらに、ヒトiPS細胞から合成RNAを用いて神経細胞を分化誘導する過程で、オルリスタットを添加したところ、未分化iPS細胞が除去されヒトiPS細胞由来の神経細胞のみを選別できることも明らかになった。

オルリスタットによる未分化iPS細胞除去で移植後の腫瘍形成抑制、マウスで確認

最後に、ヒトiPS細胞から分化させた細胞を移植する際、オルリスタットを使って未分化iPS細胞を除去することで移植後の腫瘍形成が抑えられるかどうかを調べるため、未分化iPS細胞とヒト線維芽細胞を混ぜて培養したものにオルリスタットを添加した後、免疫不全マウスの皮下に移植した。

2か月後に移植後のマウスを観察すると、オルリスタットを添加しなかった場合には、移植したマウス5匹中4匹で腫瘍が形成されたのに対して、オルリスタットを添加すると、いずれのマウスにも腫瘍は形成されなかった。

心臓再生医療だけでなく、他領域の再生医療実現化を促進する成果

今回、同技術の確立により、培養液中に脂肪酸合成阻害薬であるオルリスタットを添加するという簡便な手法で、成熟した分化細胞には影響を与えることなく、未分化iPS細胞を選択的に除去でき、臨床応用を視野に入れた高品質の移植用細胞を作製することが可能となったとしている。

研究グループは、今回の発見について「これまで開発してきた手法との併用も可能であり、ヒトiPS細胞から分化させた心筋細胞を用いた心臓再生医療を行う際に、安全性が担保された移植用細胞を得る上で極めて重要な技術である」と考えているという。また、心臓再生医療のみならず他の領域の再生医療の実現化を促進する成果であると期待される、と述べている。

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