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生体吸収性スキャフォールドの遅発性不完全圧着、心血管イベントを生じずに消失する可能性-国循

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2020年08月28日 AM11:15

1症例における冠動脈造影・光干渉断層画像診断の追跡評価報告

国立循環器病研究センターは8月27日、冠動脈疾患に対するカテーテル治療で、血管を支える役割を一定期間果たした後に分解・吸収されて消失する生体吸収性スキャフォールドを留置された後に遅発性不完全圧着をきたした1症例における、冠動脈造影および光干渉断層画像診断の追跡評価結果に関する症例報告について発表した。この研究は、同研究センターの大塚文之冠疾患科医長、安田聡元副院長(現客員部長)、野口輝夫心臓血管内科部長、藤野雅史冠疾患科医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Heart Journal」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患に対するカテーテル治療では、風船によって冠動脈を拡張させた後に、血管を内側から支える目的で金属ステントを留置する処置が広く行われている。しかしこの金属ステントは異物として体内に残るため、長期的には血管の開存を妨げるなど生体にとって不利益になるのではないかという懸念がある。

生体吸収性スキャフォールドは、留置された血管を支える役割を一定期間果たした後に分解・吸収されて消失する、いわば「消えるステント」として登場したデバイス。さまざまな臨床試験により、最新式の金属ステントと比較してデバイス血栓症の頻度がやや多いことが報告されたため、現在はこの技術の開発や普及がほぼ中断された状態となっている。生体吸収性スキャフォールドは、金属ステントと比較して厚みのある構造となっているため留置後の血管治癒反応が起こりにくく、血管内腔にデバイスの一部が浮いた状態となる「」が生じると、これが血栓症を引き起こす一因となる可能性が指摘されている。しかし、この遅発性不完全圧着の臨床転帰の詳細は、十分に解明されていない。

2剤の抗血小板療法を継続し、留置後5年目に全てのスキャフォールドが完全消失

今回、研究グループは、狭心症の診断で左冠動脈前下行枝に生体吸収性スキャフォールド(Absorb bioresorbable vascular scaffold[BVS]、アボットバスキュラー社)を留置された1症例において、冠動脈造影および光干渉断層法による画像診断を経時的に施行し、臨床経過を追跡評価した。

生体吸収性スキャフォールド留置後2年目、冠動脈造影で治療部位に再狭窄は見られなかったが、併せて施行した光干渉断層画像診断では生体吸収性スキャフォールドの一部に著明な遅発性不完全圧着が認められた。2剤の抗血小板療法を継続し、留置後3年目に光干渉断層画像評価を行うと、スキャフォールドの不完全圧着の残存が見られたが、留置後4年目の評価ではこれらの不完全圧着スキャフォールドが消失しており、5年目には全てのスキャフォールドが完全に消失していることが確認されたという。経過中、患者には一貫して胸部症状の出現はなく、心電図上の異常も認められなかった。

本症例報告は、生体吸収性スキャフォールドの著明な遅発性圧着不全の転帰を経時的かつ詳細な画像診断によって追跡し得た、世界的にも前例のない極めて貴重な報告であるとしている。

生体吸収性スキャフォールドは、異物を体内に残さない魅力的なデバイスだが、血栓症のリスクがやや高いことが報告されて以降、その開発や普及が中断される状況に陥っている。今回の報告により、やや長期間の2剤抗血小板療法を必要とする可能性はあるものの、生体吸収性スキャフォールドの遅発性不完全圧着が心血管イベントを生じることなく完全に消失し得る可能性が示された。

将来、このデバイスが再度臨床応用されるためには、更なる技術革新とデバイスの進化が必要だとしたうえで、今回の報告は生体吸収性スキャフォールドの課題の一つを克服するための手がかりを与えてくれるものではないか考える、と研究グループは述べている。

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