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セリンクロ発売、アルコール依存症患者の“減酒”を後押し-大塚製薬

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2019年04月11日 PM02:00

、推計患者数と受療患者数の“治療ギャップ”が課題

大塚製薬株式会社とデンマーク・H.ルンドベックA/Sは3月5日、アルコール依存症における飲酒量低減薬「(R)錠10mg(一般名:ナルメフェン塩酸塩水和物)」を日本国内で発売した。同剤の発売に伴い、大塚製薬は3月28日に「アルコール依存症の現状と治療」と題したプレスセミナーを開催。国立病院機構久里浜医療センター院長の樋口進氏が講演した。


国立病院機構久里浜医療センター院長
樋口進氏

国内におけるアルコール依存症の生涯経験者は推計107万人。疑い例を含めると推計292万人に上るが、実際に治療を受けている患者は年間5万人程度で、多くの患者が治療を受けていないという現状がある。治療を要する患者数と実際の受療患者数の乖離、いわゆる“治療ギャップ”の背景にあるのは、アルコール依存症という疾患自体に対する偏見などによる、治療開始・継続の難しさだ。患者自身がアルコール依存症だと認めないケースも多く、このような患者から、治療の必要性について理解を得るのは至難の業だ。アルコールに限らず依存症の治療において、最も安全かつ安定的な治療目標は、依存している対象を完全に断ち続けることだが、断酒を治療目標に設定することへの抵抗感を持つアルコール依存症患者も多いという。このため樋口氏は、「アルコール依存症の治療で大切なのは、患者本人の意向に沿った目標設定。これにより目標達成率が高くなる」と指摘する。直ちに断酒を目指すのではなく、飲酒量の低減を治療目標の選択肢として取り入れるのだ。

久里浜医療センターでは、2017年4月より減酒外来を開設し、軽症のアルコール依存症で必ずしも断酒を必要としない患者や、まだ断酒の動機づけができていない患者を対象に診療を行ってきた。2017~2018年に減酒外来を受診した患者106例のうち、調査に回答した92例において、38例が半年間外来通院を継続しただけでなく、14例が断酒を決意した。1週間の飲酒量や1か月の大量飲酒日数が大幅に減少したという結果も得られているという。

セリンクロ、大量飲酒患者の飲酒量低減効果へ期待

Osakiらが2013年に実施した調査では、アルコール依存症患者の8割以上が「過去1年間において何らかの理由で医療機関を受診」していたものの、アルコール問題に関する質問は受けていなかったことが明らかになっており1)、専門医療機関だけでなく一般の医療機関においても、アルコール依存症の疑い例を抽出し、初期対応を行うことが求められる。樋口氏らが編集委員を務めた2018年版の「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」では、アルコール依存症の早期診断・治療に焦点を当て、依存症治療を専門としないプライマリケア医、内科医、研修医を対象として想定した。同ガイドラインでは、アルコール依存症治療目標の基本は断酒であるが、患者が断酒に応じない場合や軽症である場合には、飲酒量低減を目標とすることを推奨に含めた。「大切なのは、患者を治療からドロップアウトさせないことだ」(樋口氏)。

今回発売されたセリンクロは、多量飲酒を繰り返すアルコール依存症患者の飲酒量低減を補助する薬剤。国内第3相試験では、大量飲酒日数の低減効果と、総飲酒量の低減効果が認められている。承認条件として、「本剤の安全性及び有効性を十分に理解し、アルコール依存症治療を適切に実施することができる医師によってのみ本剤が処方されるよう、適切な措置を講じること」と定められており、大塚製薬によると、今後、講習会を通じて適正使用を推進していく予定だという。樋口氏は「現時点で、セリンクロの処方に制限を設けたことには疑問がある」とし、「本来であれば、疑い例の飲酒量低減に使用して重症化を防ぐことに期待したい薬。対象となる患者に接するプライマリケア医にはこの薬が処方できないという現状は、今後変えていかなければならない」と今後の課題を示した。

参考文献
  1. 1)Osaki Y et al.:Alcohol Alcohol. 2016;51(4):465-473

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