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睡眠・覚醒を制御する2つの遺伝子変異を発見-筑波大

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2016年11月08日 AM11:30

フォワード・ジェネティクスによる研究アプローチ

筑波大学は11月3日、同大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の船戸弘正教授と柳沢正史機構長/教授らの研究グループが、睡眠覚醒において重要な役割を果たす2つの遺伝子を見出したと発表した。この研究は、、University of Texas Southwestern Medical Center、、筑波大学生命科学動物資源センター、理研バイオリソースセンター、、国立長寿医療研究センターとの共同研究として行なわれた。研究成果は、「Nature」オンライン版に11月2日付で先行公開されている。


画像はリリースより

睡眠は、誰もが毎日行なう身近な行動でありながら、メカニズムや役割が未だにきちんと解明されていない現象だ。たとえば「眠気」は誰もが日常的に体験する現象だが、その脳内での物理的実体や、日々の睡眠量をほぼ一定に保つメカニズムは全く不明だという。さらに、さまざまな要因で睡眠が撹乱される睡眠障害は、個人にも社会にも多大な経済損失をもたらしており、大きな問題となっている。

1998年に柳沢教授らにより発見された神経ペプチド・オレキシンが、・覚醒制御において重要な役割を果たすことが明らかになり、睡眠研究は大きく進展した。近年では睡眠・覚醒を切り替えるスイッチの回路についても知見が蓄積されつつある。しかし、この睡眠・覚醒のスイッチをどちらに傾かせるかを決める要因や、1日の睡眠量を規定しているメカニズムについては全くわかっていない。今回の研究ではこれらの謎に挑むべく、フォワード・ジェネティクスによる探索研究のアプローチを用いたという。

睡眠・覚醒制御の分子ネットワーク解明、睡眠障害の解決へ寄与

フォワード・ジェネティクスは、注目する性質や表現型をもつ個体から遺伝子型を調べていく方法。ここでは、 明らかな睡眠異常を示すマウス家系を樹立してその原因遺伝子変異を同定し、原因遺伝子変異が睡眠・覚醒を変化させる仕組みを調べた。

まず、遺伝性の睡眠異常を示す家系を樹立するため、化学変異原であるニトロソウレア(ENU)を雄マウスに投与し、精子に多数のランダム遺伝子変異を生じさせた。これをさらに野生型雌と交配させて変異が入った次世代マウスをつくり、これらのマウス各個体についてそれぞれ脳波・筋電図を精査し、睡眠・覚醒異常の有無を確認。これまでにランダムな点突然変異をもつ約8,000匹のマウスの睡眠・覚醒を詳細に検討し、覚醒時間が顕著に減少するSleepy変異家系と、レム睡眠が顕著に減少するDreamless変異家系を樹立。これらの家系について、連鎖解析により表現型に連鎖する染色体領域を絞り込み、全エクソームシーケンシングによって責任遺伝子を同定することで、Sleepy変異マウスではSik3、Dreamless変異マウスではNalcn遺伝子変異を見出し、その機能を詳細に明らかにしたという。

さらに、Sik3が他の分類群の生物(ショウジョウバエ、線虫)でも睡眠様行動を制御していることを確認。また、Dreamless変異マウスでは、レム睡眠の終止に関わるニューロンを含む領域の活動パターンが変化していることを発見した。これらは、睡眠覚醒制御において中心的な役割を果たす遺伝子を世界で初めて見出した成果だという。

この結果を足がかりとして、睡眠・覚醒ネットワークの全容解明が進むとともに、将来的には睡眠障害の解決にもつながることが期待されると、研究グループは述べている。

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