医師の働き方改革の負の影響として患者ケアオーナーシップ低下が懸念されている
国立成育医療研究センターは11月25日、研修医の「患者ケアオーナーシップ」を高めるには、シフトワークの遵守・良好な精神衛生・個人的達成感が重要であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター総合診療部・教育研修センターの中尾寛氏、野村理氏、窪田満氏、利根川尚也氏、庄司健介氏、石黒精氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Pediatrics International」に掲載されている。

画像はリリースより
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2019年度から、働き方改革関連法案が順次施行され、2024年度に医師の働き方改革が施行された。同センターの小児科専攻研修では、働き方改革に対応して病棟研修の労務改善を行い、その前後調査において労働状況と精神衛生の改善を見いだし、報告している。
一方、医師に対する働き方改革の負の影響として懸念されることとして、専攻医の減少した分の業務が指導医への負担となること、また、研修時間の減少に伴って専攻医の医学的知識やスキルが低下すること、患者ケアオーナーシップが低下すること、などが挙げられた。
小児科専攻医を対象に「患者ケアオーナーシップ」の基礎調査を実施
研究グループは今回、その中の「患者ケアオーナーシップ」についての基礎調査を行い、結果を報告した。患者ケアオーナーシップは、北米のインターン、レジデントの労働時間規制の流れの中で、2010年前後から注目されるようになってきた概念である。医療従事者の個々の患者に対する知識、マネジメント、感情的な注力から生まれる情動認知状態を指し、研修中にマスターすべきプロフェッショナリズムの主要素の一つとされ、ケアの質や臨床技能、患者満足と関連するとされる。
測定尺度が2019年に開発され、項目としてアドボカシー、責任感、患者に関する知識、コミュニケーション、率先性、ケアの継続性、自律性、オーナーシップの自覚、が含まれている。この尺度が2021年に日本語訳されたため、今回は日本語版の尺度を使用し、同センターで小児科研修をする専攻医に対し基礎調査を行った。
患者ケアオーナーシップ指標に加え、属性・働き方・精神衛生状況も調査
研究では、2024年3月と9月に合計49人の小児科専攻医と総合診療部フェローを対象に、アンケートを用いて横断的調査を行った。調査内容としては、患者ケアオーナーシップ指標のほか、年齢や研修年数などの属性、労働時間などの働き方、うつ尺度やバーンアウト指標の精神衛生の項目で行った。
同センターの小児科研修医は平均的に高い患者ケアオーナーシップをもつと判明
今回の調査での「患者ケアオーナーシップ指標の平均値」は5.3~5.4であり、日本の先行研究で報告されている4.7~4.8よりも高いものであった。指標が高いことは、医師が高い患者ケアオーナーシップを持つことを示しており、同センターで小児科研修をする医師は、平均的に高い患者ケアオーナーシップを抱いて働いていると考えられる。
患者ケアオーナーシップの高さ・シフトの順守・精神衛生の良好さとの間に関連性あり
「労働状況」との関連性については、夜勤前の日中休みを遵守できていることと、患者ケアオーナーシップとの間に正の関連が見出された。これはシフトワークへの遵守、つまり、自分がシフトの時は働き、そうでない時はしっかり休むことと、患者ケアオーナーシップを高く持つこととの間に関連性があることを示唆している。2019年の調査では、シフトワークへの順守と精神衛生が良好なこととの間に関連性を見いだしていた。これらの結果を合わせると「シフトワークを遵守すること」「精神衛生が良好なこと」「患者ケアオーナーシップを高くもつこと」との間には関連性があることが考えられる。
個人的達成感が高いことと、患者ケアオーナーシップとの間に関連性あり
「精神衛生」の項目の中では、バーンアウト指標のうちで、個人的達成感が高いことと患者ケアオーナーシップとの間に関連が見いだされた。今回は他の精神衛生項目との関連性は見いだされなかったが、先行研究では各種指標で精神衛生が良好なこと、患者ケアオーナーシップとの間に正の関連があることが示されている。個人的達成感は日本語で言う「やりがい」と近い概念であり、さらに、そういった感覚や「医師を天職と感じること」が、バーンアウト傾向と逆の関連を持つことが先行研究で報告されている。
「達成感」や「やりがい」をターゲットとした研修環境整備が重要
「働き方改革の報告の中で、専攻医の精神衛生を良好に保ちながら患者ケアオーナーシップを高めるような研修環境の整備が目標となることを述べたが、そのために、達成感や、やりがいといったものをターゲットとした研修環境整備の重要性を示唆していると捉えている」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース


