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乳がん発症の超早期に、微小環境が作られていくメカニズムを発見-金沢大ほか

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2021年10月21日 AM11:00

がん幹細胞様細胞の周囲にどの細胞が集まって何をするとがんになるのか?

金沢大学は10月20日、乳がん発症に必須の超早期の微小環境を作り出すメカニズムを発見したと発表した。この研究は、同大がん進展制御研究所/新学術創成研究機構の後藤典子教授、東京医科大学分子病理学分野の黒田雅彦主任教授、東京大学医科学研究所の東條有伸教授(研究当時、現:東京大学名誉教授、東京医科歯科大学副理事・副学長)、東京大学特命教授・名誉教授の井上純一郎教授、国立がん研究センター造血器腫瘍研究分野の北林一生分野長、九州大学病態修復内科学の赤司浩一教授、慶應義塾大学医学部先端医科学研究所遺伝子制御研究部門の佐谷秀行教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of National Academy of Sciences,USA」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

「がん予防」は、最も重要で費用対効果に優れた長期的施策とされており、避けられるがんを防ぐことが重要であると考えられている。しかし多くのがんにおいて、前がん病変や超早期のがんが増殖を開始する分子機構がいまだ不明のため、分子機構に根ざしたがん発症予防法の開発には至っていない。

近年、がん組織は、幹細胞の性質を持つがん細胞(いわゆるがん幹細胞様細胞)が分化増殖を繰り返して構築されると考えられつつある。がんの病態の始まりも、がん幹細胞様細胞が発生し増殖を開始することと考えられている。がん幹細胞様細胞は、周囲に集まった間質細胞、免疫細胞などが作る微小環境より産生されるサイトカインなどの影響を受けることが知られているものの、その実態は不明だった。

<NFκB<炎症性サイトカイン<間質細胞や免疫細胞が遊走<乳がん発症

今回、研究グループは、乳がん細胞を取り巻く微小環境の実態を調べていく過程で、乳腺のごく少数の細胞に、細胞内シグナル分子FRS2βが発現していることを見出した。

次に、乳腺特異的に細胞膜受容体型チロシンキナーゼHER2/ErbB2を過剰発現することで、乳がんを自然発症する乳がんモデルマウスMMTV-ErbB2を用いて、超早期がんの乳腺微小環境を調べた。その結果、FRS2βは細胞内の小胞上で、炎症性マスターレギュレーター転写因子NFκBを強く活性化することがわかった。FRS2βによって活性化したNFκBは炎症性サイトカインを産生、これらの炎症性サイトカインが細胞外へ放出されると、そこへ間質細胞や免疫細胞が引き寄せられることがわかった。

この状態の乳腺に乳がん幹細胞様細胞を移植すると、1か月以内に大きい腫瘍塊ができた。一方、FRS2βを欠失した乳腺に、乳がん幹細胞様細胞を移植しても、全く腫瘍ができてこなかった。このことから、がん幹細胞様細胞が増殖を開始するためには、FRS2βが乳腺細胞内でNFκBを活性化して超早期の微小環境を作ることが必要であることがわかった。これらの結果から、乳がん発症には、FRS2βによって整えられる乳腺微小環境が極めて重要であることが明らかとなり、超早期微小環境の実態を紐解く成果が得られた。

DCIS周囲のFRS2β-NFκB活性から、手術の必要性を判断できる可能性

現在、乳がんの早期病変Ductal carcinoma in situ(DCIS)はマンモグラフィで見つけることができる。しかし、DCIS内のがん細胞が、その後増殖して悪性の浸潤がんになっていくかどうか見極めがつかないため、手術という侵襲性の高い治療法しか選択肢がなく、実臨床における問題となっている。このDCISを取り囲む微小環境内のFRS2β-NFκB軸の活性の強弱により、手術の必要性の有無を判断できる可能性がある。

研究グループは、「本研究をさらに発展させることにより、乳がん発症前に整えられている乳腺微小環境を標的とする治療を行うことが可能になると考えられる。ひいては乳がんの発症予防、早期の治療が実現し、従来であれば乳がんにより命を落としていた人々が救われることが期待される」と、述べている。

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